クラウド上のデータプラットフォームを提供するSnowflake(スノーフレイク、米国カリフォルニア州)は、すべての組織をデータ主導型にすることをミッションに掲げ、2012年の創業から10年足らずで3000社以上の顧客を獲得してきた。Snowflake日本法人のトップに、「データクラウド」の実践によるデータドリブン経営について聞いた。
データをサイロから解放し
透過的に分析・活用する
編集部(以下青文字):御社が提唱している「データクラウド」とは、どのような概念でしょうか。
東條(以下略):データクラウドとは、オンプレミス(自社保有・運用)環境やデータセンターなどに散在しているデータを、クラウド上のデータプラットフォームに移して統合的に活用したり、外部とのスムーズな連携によるデータエコシステムの構築を実現したりするものです。
データドリブン経営を実践するうえで最大のボトルネックとなっているのは、データのサイロ化です。一つの企業、あるいは同一の企業グループにおいても、部門ごと、グループ会社ごとに異なるデータベースやシステム内にデータを保持していて、それらを透過的に分析・活用できる環境になっていない。そのような状態では、日々変化するビジネス環境の中で、データに基づいた意思決定を行うことはできません。
視野を取引先やパートナー企業に広げると、それぞれの企業間でもやはりデータのサイロ化が生じています。分断されてしまったデータをクラウド上の統一基盤に移すことによって、サイロから解放し、透過的に分析できるようになれば、日々の意思決定にデータを十分活用できます。
さらに、取引先やパートナー企業、顧客企業など外部組織が持つさまざまなデータを組み合わせて分析できるようになれば、自社のデータだけでは見えなかった実態やインサイト(洞察)が見えてきます。そういう世界観をデータエコシステムと私たちは呼んでいます。
最近では複数のクラウドベンダーのサービスを併用する「マルチクラウド」の流れも大手企業の間で広がっていますが、一つのクラウドインフラに依存せずに自由にデータ活用したり、つなげたりできることもデータクラウドの要件の一つです。
データクラウド化を進め、成果を上げている企業事例はありますか。
たとえば、ネットワーク機器世界大手の米シスコシステムズは、サプライチェーン全体でクラウド上にデータエコシステムをつくり上げています。仮に、ある生産ロットの製品に何らかの不具合があった場合、その原因が部品の製造段階にあるのか、製品の組立工程にあるのか、あるいは物流段階にあるのかといったことをすぐに特定し、サプライヤーと密接に連携しながら迅速に問題を解消できる仕組みを実現しています。
各サプライヤーに不具合の発生原因の調査を依頼し、それぞれが自社のデータを調べ、そのコピーを受け渡しする従来のやり方では、シスコのような迅速な対応は不可能です。データクラウド化によって同社はトラブル対応を迅速化しただけでなく、製品を企画・開発してから市場投入するまでの時間、タイム・トゥ・マーケットの短縮化も実現しています。
もう一つ、イギリスの大手スーパー、セインズベリーの事例を紹介しましょう。同社は、多くのプライベートブランド(PB)商品を展開し、近年はeコマース(EC)事業も拡大しています。
当然ながら多数の消費財メーカーと取引があり、物流業者を含めて非常に大規模なサプライチェーンを形成しています。シスコと同様にセインズベリーもクラウド上にデータのエコシステムを構築しました。
どの商品が、いつ、どこで、どれくらい売れているか。どこに、どれだけの在庫があるのか。ECサイトでの消費者の行動履歴はどうなっているのか。そういった情報をサプライヤーと共有することでインサイトを導き出し、PB商品の開発やオペレーションの最適化、顧客サービスの向上などに役立てているのです。