分析の軸足は過去から未来へ
社内データだけでは限界
データクラウドの構築が求められている背景は何でしょうか。
アナリティクスの歴史を振り返ると、かつては過去のデータに基づく分析、ヒストリカルアナリティクスが中心でした。現在はAIを活用した予測分析に軸足が移りつつあります。需要予測がその典型ですが、予測に基づいて何らかのサジェスションを行い、人の意思決定をサポートする。そこまで踏み込んだアナリティクスを行おうとすると、自社のデータだけでは限界があります。
ビジネスは一社で成り立っているわけではなく、顧客がいて、多くの取引先やパートナー企業の協力があって成立しています。社内のデータだけでビジネスの状況を正確に把握できるかというと、けっしてそうではないのです。
自社の製品や顧客に関して、取引先やパートナー企業などが持っているデータに透過的にアクセスできれば、かなり正確、かつリアルタイムに自社の課題や打つべき手についてのインサイトが得られるはずです。
これまでもそれはわかっていたのですが、簡単にできることではないので、ほとんどの企業は諦めていました。しかし、シスコやセインズベリーの例のように、クラウド上のプラットフォームをうまく活用すれば、部門や企業の壁を超えてデータをシームレスに共有することが可能な時代になったのです。
セキュリティの問題から、外部とのデータ共有に抵抗感を抱く企業も少なくありません。
セキュリティはたしかに重要な問題ですが、オンプレミスだからセキュリティが高い、クラウドだから低いということはありません。
たとえば、米カリフォルニア州政府はサードパーティが持つ新型コロナウイルスの地域別の感染者数、病院の空きベッド数などのデータをクラウド上で共有し、感染症対策に役立つ分析を行ったり、市民に情報提供したりしています。
日本でも政府がデジタル庁の設立に乗り出しましたが、行政こそ幅広い情報の共有とデータ活用が求められていると思います。
21世紀の経営資源であるデータを握るGAFAなどのメガプラットフォーマーに、日本企業が打ち勝つのは難しいという指摘があります。
そうした指摘はまったく当たらないと思います。自社の強みをデータドリブン経営によってさらに研ぎ澄ますことができれば、どんな企業でも成長の可能性は高まります。
GAFAに勝つとか負けるとかという話ではなく、自社がデータに基づく意思決定がどこまでできているかが問題です。必要ならGAFAが持っているデータも活用すればいい。家電製品や車がネットにつながり、世の中のデータ量はどんどん増えていきます。そういったデータもつなげて分析し、意思決定に活用していくことが、企業としてのデジタル変革につながります。
社内外のデータを意思決定に活用すべきという点について、日本企業の理解は進んでいると思いますか。
まだら模様ですね。たとえば、既存のデータベースにある構造化データや(SNSなど)非構造化データを全部集めてデータレイクをつくることに真剣に取り組んでいる企業があります。それ自体は間違ったことではありませんが、データレイクをつくるのは手段であって目的ではありません。
企業としてどのような戦略やビジョンを持ち、それを達成するためにデータをどのように使うのか。その目的が明確でないと成果は上げられないと思います。
データドリブン経営を進めていくためには、戦略レベルでの着眼点が重要だということですね。
どんな企業でもいろいろな課題を抱えているはずです。営業部門であればどうやって売上げを伸ばすか、生産部門ならいかに在庫を減らすか、人事部門なら社員のエンゲージメントをどう高めるかなど、部門ごとに異なる課題があります。
そうした課題をしっかりと浮き彫りにして、どの領域にデータドリブンによる意思決定を適用するのかをしっかりと定めることが重要です。
テクノロジーはあくまでも手段であって、目的にしてはいけない。米国ではよくノーススター(北極星)といいますが、行き着くべき目的地とその道標をはっきりと定めたうえで、より正確かつ効率的に目的地にたどり着くためにテクノロジーを使う。目的地や道標を定めるのは、現場ではなく経営層の仕事です。