外出抑制や接触回避による「消費行動のデジタル化」は、もはや後戻りできないトレンドとなりつつある。変化に沿って売り上げを伸ばすには、今まで以上に緻密でタイムリーな「1to1マーケティング」が不可欠だが、日本では人材不足や情報のサイロ化などが障害となるケースが多いようだ。先行する海外企業は、いかにパーソナライズされたデジタルマーケティングを実現しているのか?先進事例を基に、2~3年後には日本でも当たり前となる近未来を先読みする。
コロナ禍でますます高まる「1to1」マーケティングの重要性
新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の消費行動は「オフライン」(実店舗)から「オンライン」(インターネット)へと確実にシフトしている。
ファッションや家具、家電などは言うまでもなく、スーパーやレストランに足を運ぶことすらためらわれるようになったことで、食料品、日用品、果ては外食メニューの出前まで、オンラインで注文するのが当たり前となった。
セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャー
東京大学大学院修了後、ウェザーニューズにSEとして入社。外資系ITベンダーなどを経て、2016年セールスフォース・ドットコムに入社。海外AppExchangeパートナーの日本進出支援モデルを構築し、数々のパートナーを成功に導き、新市場開拓に貢献。複数ポジションの経験を基にした多角的な視点で、現在はプロダクトマーケティングとしてデジタルマーケティング/コマース関連製品の拡販に従事。
こうした「消費行動のデジタル化」は、コロナ禍が過ぎ去っても、決して元通りにはならないだろう。在宅中心の暮らしが“ニューノーマル”になるだけでなく、「大抵の買い物はネットで事足りる」という事実に人々が気付いてしまったからである。
この変化とともに、デジタルマーケティングでは、ますます緻密な消費者の行動データ分析や、きめ細かな施策が求められるようになってきた。なぜなら、ネット上における商品の物色や、「買う」「買わない」の判断に要する時間が劇的に早まっているからだ。
「画面表示された商品を眺めても、『興味がない』と感じたら瞬時に他のページに移りますし、『いいな』と思った商品のページを開いても、期待外れだったらすぐに閉じてしまいます。そうした素早い行動を、一人一人の動きとしてリアルタイムに把握し、動きに対応した施策を間髪入れずに打っていくことが求められているのです」と語るのは、MA(マーケティングオートメーション)ツール「Marketing Cloud」(マーケティング・クラウド)などを提供するセールスフォース・ドットコムの前田恵氏である。
また、これは新型コロナ感染拡大以前からの変化であるが、商品・サービスを提供する企業が「どんな会社なのか?」ということを、購入の判断基準とする消費者も増えている。共感できる企業ビジョンを持っているか、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献している企業か、といったことが、商品・サービスの魅力と同等以上に問われるようになってきているのだ。
こうした変化への対策として、前田氏は「従来のデジタルマーケティングではセグメント(ひと塊の分類)としてくくっていた顧客を、一人一人の単位までパーソナライズして分析し、それぞれの人に特別感を抱いてもらえるようなアプローチをすることが有効です」と提案する。いわゆる「1to1」(ワン・トゥ・ワン、1対1)マーケティングの実践である。
セールスフォースの調査によると、10人中8人(84%)の顧客は、単なる数字としてではなく、1人の人として扱われることを望んでおり、それが購入の決め手になると回答している。「1to1」マーケティングを実践するか否かで、売り上げは大きく変わるのである。