人材不足と一元化されていない顧客データが大きな課題

 とはいえ、「1to1」マーケティングは、セグメント単位の顧客を対象とするデジタルマーケティングと比べると、非常にハードルの高い取り組みである。中でもネックとなりやすいのが、マーケティング部門の人材不足だ。

 対象を「一人一人」に絞り込んできめ細かな施策を打つには、当然ながら相応の人手を要する。既存の人員だけではとても対応できず、ここでギブアップしてしまう企業も多い。

 また、「1to1」の効果を高めるためには、マーケティング部門だけでなく、部門を横断した企業全体としての取り組みが不可欠である。

「例えば、オンライン上でお客さまの行動や購買状況などを把握しても、その情報が店舗と共有されていなければ、店舗スタッフは、そのお客さまがロイヤルカスタマーなのかどうかすら認識できません。ネットではよく買い物しているのに、初めての客のように扱われたら、いい気分はしないでしょう。オンラインとオフライン、その他の部門も含めて、お客さまに関するデータを一元的に共有し、どのチャネルやデバイスでも統一感のある体験が提供できる環境を整えることが望ましいのです」と前田氏は語る。

 残念ながら、多くの日本企業は「1to1」マーケティングのための環境が十分に整っておらず、実施しようにもできない状況に陥っている。

 セールスフォースが毎年実施している「マーケティング最新事情」というグローバル調査の第6版(2020年版)によると、日本のマーケターが優先すべき取り組みとして挙げたトップ3は「人材の雇用と育成」「一元化された顧客データを全ビジネスユニットで共有」「イノベーション」の順であった。

 一方、海外のマーケターが挙げた優先すべき取り組みのトップ3は、「イノベーション」「リアルタイムの顧客エンゲージメント」「プライバシーに関する規制の遵守」であり、多くの日本企業が抱えている人材不足やデータのサイロ化といった課題はすでに乗り越え、次のステージへと上っていることが分かる。

 実際、海外ではAIなどの最新テクノロジーを駆使したイノベーティブなデジタルマーケティングツールで「1to1」マーケティングを実践する企業が増えているという。日本は一歩遅れていることになるわけだが、前田氏は「2~3年後には日本でも海外と同じ状況が訪れるでしょう」と予想する。

 その根拠とするのが、今から2年前にセールスフォースが調査を行った「マーケティング最新事情」第4版(18年版)の結果だ。「この調査では、米国のマーケターが優先的に解決すべき課題として『社内に十分なリソースがない』ことを挙げていました。つまり、今日本のマーケターが抱えている問題を、2年前には米国のマーケターも抱えており、それを克服してイノベーション活用のステージに上がったのです」と前田氏は説明する。

 言い換えれば、今海外で進んでいるイノベーションを活用した「1to1」マーケティングの動きは、日本のデジタルマーケティングの近未来を表しているのだ。