実は、AIでの“自動回答”に
顧客は抵抗感がない

 では実際のAIコンシェルジュの導入事例を見ていこう。

事例●生協の場合

 東海3生協(コープぎふ、コープあいち、コープみえ)を会員とする東海コープ事業連合(以下、東海コープ)の例である。

 東海コープでは、組合員からの商品注文を電話とネットで受け付けているが、注文センターへの電話注文を補完する機能として、AIコンシェルジュを導入した。従来からダイヤルプッシュ式のIVR(Interactive Voice Response)を使用していたが、昔ながらの機械音声が分かりにくく、途中離脱してしまう組合員が一定数いて、有人の注文センターへの電話が減らないという課題を抱えていた。

 その課題を解決するため、話し声で注文番号や個数を認識できるAIコンシェルジュを導入し、組合員の利便性向上と、自動注文サービスの利用者数拡大を目指したのだ。

 東海コープに導入されたAIコンシェルジュは、電話をかけると、組合員番号や電話番号をリアルタイムで音声認識し、注文したい商品番号を話すと自動的に注文を受け付けるというシステムである。従来のプッシュ式のシステムも残して併用できるようにしている。

 東海コープの鈴木修治センター長は導入の効果についてこう語る。

「導入時期が20年4月だったのですが、その後コロナ禍による影響で、入電が異常に増加するという事態に直面しました。想定を超えて、オペレーター対応の受電回線の話中率が一気に高まるという状況になったのですが、これをAIコンシェルジュに振り分けることで、話中率の高まりを回避することができました。また、音声認識とプッシュ操作の2種類の入力方法を併用して、早朝や深夜を含む“24時間365日”の受付を可能としたため、ピーク時の混雑解消が促され、組合員の利便性が向上しました。今後は、オペレーター体制の不足時のフォロー窓口としても利用していきたいと考えています」

 実際の運用では、意外なことも明らかになった。プッシュ式の方が注文を正確に受け付けると思われていたのだが、ふたを開けてみると、AIコンシェルジュの方に軍配が上がった。AIの音声認識率が95%と高かったのに比べて、プッシュ式の認識率は80%弱。つまりプッシュ式では意外と“押し間違い”が多いことが判明したのである。

「電話受付のピーク時の混雑解消が促され、組合員の利便性が 向上しました」と語る東海コープ鈴木修治センター長
東海コープの組合員数は約96万人
(2020年11月現在)

事例●電力会社の場合

 とある電力会社では、電力供給再開の電話の申し込みにAIコンシェルジュを導入した。ヒアリングする内容が、名前と契約番号と比較的シンプルで、間違いが発生しても不利益が起こりにくい分野だからだ。AIコンシェルジュの音声認識率の高さや音声合成のイントネーションの良さ、さらに導入後の積極的な改善提案などを評価しての採用だった。

 最初に小さなエリアで試験的に導入したところ、対象となる顧客への供給再開の完了率が100%という成果を上げたため、21年3月までに全エリアでサービスを開始することになった。利用者は意外と、AIでの“自動回答”に抵抗感がないことも分かった。抵抗感を緩和するため、AIか人の対応かを選んでもらえるようにしたのだが、約半数はAIを希望したのだ。今後は供給再開の申し込みだけでなく、他の受付業務への展開も検討している。

事例●大手通販の場合

 また大手通販では、返品の電話受付をAIコンシェルジュで自動化する予定だ。同社のコールセンターには年間80万~90万件もの受電があり、そのうちの約1割が返品に関する電話だという。自動化は、利益を生み出さない返品業務のコストを抑えるためである。現在はテスト期間で、21年2月から本格導入の予定だという。