味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているか

顧客や従業員の体験(エクスペリエンス)データと業務(オペレーション)データをバリューチェーン全体でつなぎ、顧客や従業員に寄り添った真のデータ経営を実現するにはどうすればいいのか。「デジタル時代の『エクスペリエンス経営』の実践」をテーマに開催されたオンラインセミナーの内容を紹介する。

志本主義に基づいた「新SDGs」とは

 基調講演に登壇したのは、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授の名和高司氏。「ニューノーマルに向けた経営変革~DXからMXへ」と題してプレゼンテーションを行った。

 名和氏は、資本主義の先を行く概念として志本主義(Purposism)と、それに基づいた「新SDGs」を提唱している。「国連のSDGs(持続可能な開発目標)は2030年までのゴールでしかなく、さらにその先を考えなくてはならない」と名和氏は説く。

 新SDGsのSはサステナビリティを指す。SDGsが17の目標(ゴール)を掲げているのに対して、新SDGsでは18番目のゴールを考えようと唱えている。17の目標が「規定演技」だとすると、18番目のゴールは「自由演技」であり、ここに何を入れるかが「その会社ならでは」につながってくる。

 Dはデジタルだ。ただし、デジタルは単なるツールにすぎないため、デジタルトランスフォーメーション(DX)においては、デジタル(D)を使い倒して、変革(X:トランスフォーメーション)する側に重点を置く必要がある。

 Gはグローバルズと読み替えている。グローバル化によってボーダーレスな世界が実現するはずが、実際にはボーダーフルになってしまった。今回のコロナ禍で国境が遮断され、米中をはじめとした地政学的分断も生じている。多極化した世界をもう一度つなげ直す必要があるとの意味が、複数形のグローバル“ズ”に込められている。

 このS、D、Gはそれぞれバラバラにあるのではなく、三つの真ん中を「志」(パーパス)がピン留めしているイメージだ。志によって共感を生み、周囲の人々を巻き込んで新SDGsを推進していくのが志本主義の経営であり、「コロナ禍で志本経営は10倍速に加速する」と名和氏は予測する。

一橋大学大学院の名和高司・経営管理研究科客員教授(オンラインセミナーの配信動画より)

 DXの実践においても重要になるのがこの「志」であり、最初に巨大で、非連続で、革命的なパーパス(MTP:Massive Transformative Purpose)を掲げて取り組むべきだと名和氏は語る。「MTPは現在地点から相当高いところに設定してほしい。例えばそれは、10Xと呼ばれる1桁上の世界です」。

 現在地点とMTPのギャップを埋めるのがデジタルの力であり、DXは三つのステップに分かれる。最初の「DX 1.0」では自社内でデジタルを使い倒して自社変革を進める。従来のオペレーション・エクセレンスをオペレーション・トランスフォーメーションに昇華させたり、クリエイティビティーをルーティンに落とし込んでいったりする(標準化)。

 次の「DX 2.0」ではエコシステム変革を進める。顧客やサプライヤー、パートナーなどの周囲とつながることで、自社を超えた展開が可能になる。そのためには、顧客の期待に応えるだけでなく、顧客の中に入って新たな顧客体験を創造したり、さらには顧客を正しい未来にいざなう啓蒙・啓発も必要だ。オープンイノベーションや分散型ネットワークなども重要な要素となる。

 最後の「DX 3.0」が事業モデル変革である。この段階では、マネタイズの仕方や事業の在り方が根本的に変わる。「今言われている『Product as a Service』の先の『Service as a Product』を見据えて、いろいろなモノとコトとを再度プロダクトに統合する必要がある。しかし、プロダクトといってもそれはハードではなくソフトです。いろいろなものがソフトやアルゴリズムに置き換わることでリーン&スケールが可能になります」と名和氏は語る。

デジタルでマネジメントを変革する三つのポイント

 DXの本質とは、デジタルを使い倒しながら、マネジメントをトランスフォーメーションすること(MX)であり、名和氏はポイントとして以下の3点を挙げる。

 まずは「あるべき姿」(志・パーパス)を見つけること。「そこに自社らしさをいかに反映するか。キーワードは『わくわく、ならでは、できる』です。トップの思いだけではなく、現場にしっかり染み渡る形のパーパスにしないといけません」。

 その上で、なぜ過去には10倍上の世界に行けなかったのか、「自社のクセ」(課題)を見つける必要がある。「やっているつもり病」や「PoC(概念実証)病」に陥っていないか、あるいはトップと現場がサイロ化されていないか……。「ここで相当深く内省しないと、今までの繰り返しになります」と名和氏は忠告する。

 そして3点目が、内省した上でどう変革するかという「変革の方向性」である。ここでのキーワードはピボットだ。軸足はそのままで、もう一つの足を大きく動かすことで、現場で起きているイノベーションを発掘し、組織につなぎ、アルゴリズムとして落とし込んでいく。この仕掛けをやり続けることで、現場力と組織力が融合し、日本企業は現在の10倍以上のインパクトを出せるようになる。

「マネジメント側が仕掛ける変革を従業員一人一人に自分ごと化して取り組んでもらうには、あるべき姿、パーパスが大事です。そのためにも志本主義に立ち返ってほしい」と名和氏は最後に訴えた。

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