味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているか

食と健康の課題解決を目指す、味の素のDXアプローチ

 続く特別講演では、味の素代表取締役副社長執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の福士博司氏と、コニカミノルタ常務執行役CIO・DX改革担当の市村雄二氏が、DXを通じた企業価値向上の取り組みについて、それぞれ語った。

 味の素は2020年代に入って、パーパス経営にかじを切り、「食と健康の課題解決企業(=ASV)」に生まれ変わることを宣言した。「DXは企業変革のツールとして用いており、DXの実行は、三つのステップから成る名和氏のフレームワークを採用した」と福士氏は話す。

 第一のステップであるオペレーション変革では、組織や人材など“見えない資産”の価値を向上させるサイクルを回す。具体的には期首にCEO(最高経営責任者)が経営計画に関する対話集会を開き、それを受けて、本部長や組織、個人単位での対話を進め、情報共有と価値観の共感・共鳴を起こす。次に、実行プロセスでさまざまなプログラムを用意し、個人の能力向上を図り、結果についてはモニタリングし、さらなる改善へとつなげていく。

味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているか味の素の福士博司・代表取締役副社長執行役員CDO(オンラインセミナーの配信動画より)

 第二の経営エコシステムの変革では、伝統的で硬直的、サイロ構造もある既存の組織を、ネットワークやAI、ビッグデータなどデジタルの力を使って解放し、それぞれの機能やカルチャーを向上させるとともに、それらがネットワーク化した形を目指している。

 マーケティングに関しては、研究開発部門と事業部門が一緒になって、新しい顧客体験(CX)を創造する取り組みを行っている。顧客とのタッチポイントを開発して、データを蓄積し、社内の知見も取り入れて、最終的には幸福感や健康、プレミアム、あるいはエシカル消費といった、新しいCXを提供していく。

「最終目標は社会変革であり、そのためには第三のステップで新たなビジネスモデルを確立する必要があります。食と健康の課題解決を通じて、人々の健康寿命を延ばしていくために、今考えているのはプラットフォーム型のアプローチです」と福士氏は打ち明ける。

 例えば、「未病・健康」の社会的課題に対しては、三大疾病と認知機能低下のリスクを診断する「アミノインデックスサービス」を使い、太陽生命保険やH.U.グループホールディングスと提携し、新しい商品・ソリューションの開発につなげていく予定だ。

「1社単独ではソリューションを提供できませんが、協業他社、アカデミアなどとも連携し、ネットワーク効果を発揮していくことで、食と健康の課題解決に貢献していきたい」と福士氏は結んだ。

DXにより無形資産と事業の競争力を強化するコニカミノルタ

 2030年の社会課題からバックキャスティングし、差別化要素が生きる五つの領域において、DXにより無形資産と事業の競争力を強化し、持続的な価値を提供していくことがコニカミノルタ流の価値創造プロセスだ。

 オフィス事業の領域を例に、同社のDXの展開ステップを説明しよう。売上高の6割以上を占めるコア事業のハードウエア&オフィスソリューションにおいて、さまざまなデータを活用してデジタルサービスやデータビジネスを展開していく。それに伴い顧客との関係も変化していく。

「お客さまのワークフローだけでなく、データ活用プロセスを変革することで、意思決定の支援を実現することにより、期待を超える顧客体験の提供につながります。さらにその先には、多様なステークホルダー間をつなぎ、データエコシステムを構築することで、お客さまに必要不可欠な課題解決型のサービス、ソリューション提供を見据えています」と市村氏は話す。オフィス事業以外の領域でも同様のアプローチを採用し、全社的なDXを推進していく方針だ。

味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているかコニカミノルタの市村雄二・常務執行役CIO・DX改革担当(同)

「われわれにとってDXは、デジタルテクノロジーおよびデジタルビジネスモデルを使って組織やプロセスを変革し、グループの業績を改善することに尽きます。単にPoCを回せばいいわけではなくて、スケーラブルなレベルで業績改善に貢献しなければ意味がありません」と市村氏は言い切る。

 DXの推進には、製品・サービス、チャネル、顧客エンゲージメント、組織構造、文化といった8要素のオーケストレーションが鍵となる。それを担うのが、業務改革部、インナーコミュニケーション推進室、IT企画部、DXブランド推進部の四つの事業部門から成る専門組織だ。この専門組織では、持続的成長のための無形資産の戦略的強化を目的として、顧客接点や技術、人財力、エンゲージメント、メーカー力、マネジメント力の強化を図っている。

 DXを加速させるには、特に従業員エンゲージメントが重要だと市村氏は言う。「長期ビジョンと中期経営戦略を実現するためには、グローバルでグループ従業員一人一人が自分ごと化し、自発的な行動と変革を起こすことが不可欠です。そのためのコミュニケーションも欠かせません」。

顧客の声を聞くだけでは、顧客満足度は落ちる

 続く協賛講演では、SAPジャパン バイスプレジデント ソリューション統括本部長の森川衡氏が登壇し、「顧客の声を聞くだけでは顧客満足度は落ちるだけ」と題してプレゼンテーションを行った。

「お客さまのエクスペリエンスや感情を理解することは大事だが、それは一要素にすぎません。お客さまの感情に対して、どのような手を打つかを会社として決め、実際にそれを実行することが肝要であり、これら三つがそろって初めてエクスペリエンスマネジメントといえます」。森川氏はこう切り出した。

 世界的な楽器メーカー、ヤマハの新製品開発の事例に基づいて、エクスペリエンスマネジメントの説明があった。最初にお客さまの経験を理解し、次にキーボードのスイッチの形状をスライド型にするか、ノブ型にするかを検討した。

 設計するとどれくらいのコストになるのか、さらに生産技術的に量産できるのかを含めて意思決定し、実際に詳細設計に移り、量産に入って、そのための調達購買を行い、出荷し、サプライチェーンを最適化する。さらに、製品を顧客に届け、演奏した顧客の反応を見ていった。

「ヤマハのように、エクスペリエンス、インテリジェンス、オペレーションのサイクルを無限に回していくことで、お客さまのニーズやウォンツに沿ったイノベーションを継続的に起こすことが可能になります」と森川氏は語る。

味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているかSAPジャパンの森川衡・バイスプレジデント ソリューション統括本部長(同)

 SAPは、エクスペリエンスマネジメントをトータルに支援するソリューションを提供している。エクスペリエンスのプロセスでは従業員、ブランド&マーケット、製品・サービス、カスタマー&パートナーといった4者の感情を理解する機能を提供。インテリジェンスでは、その感情に対してどのような手を打てばいいのかを分析したり、アプリケーションを開発したりするための機能を提供。オペレーションでは顧客、人事、会計、生産、購買を管理する機能を提供する。

「これら三位一体化したソリューションを提供していくことで、お客さまがディスラプトされる側ではなくて、ディスラプトする側に回れるようサポートしていきたいと考えています」。森川氏はこう意気込みを示した。

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