味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているか

コロナ禍がDXの進捗に与えた影響とは

 プログラム後半は、名和氏をモデレーターとして、登壇した3人の講演者によるパネルディスカッションが行われた。テーマは「DXからMXへ~デジタル技術をツールとして、いかに経営変革を実現するか?~」。DXをMX(マネジメントトランスフォーメーション)に昇華させていくことが重要と説く名和氏は、DX実践に当たっての課題、問題意識について最初に質問した。

味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているかモデレーターを務めた一橋大学の名和氏(左)とパネリストの味の素・福士氏

 味の素の福士氏は、パーパスドリブン経営にかじを切った背景には、かつて、グローバルトップ10の食品企業を目指していたときの反省があると語った。

「当時は有形資産の投資に走ってしまい、企業として目指すべきゴールを見失い、経営効率も悪化していました。そこで食と健康の課題解決企業をMTPに掲げて、無形資産に投資する方向性に大転換しました」

 人や考え方、ビジネスモデル、顧客価値といった見えない資産を見える化できるのがデジタルツールの最大の特徴であり、それによって経営変革のプロセスを回し、最適化を図っている。

 コニカミノルタは全社レベルの変革を起こすため、2020年春にDX改革担当役員を新設し、市村氏が就任した。

「DXの定義はデジタル技術、デジタルビジネスモデルを使って、組織やプロセスを変えていくこと。その目的は全社の業績を上げることです。部門ごとにサイロ化された考え方やルールはデジタルツールやデータ解析を使って壊していいと訴えました」(市村氏)。

 DXの進捗を測る独自の指標も策定した。同社では事業部、機能組織ごとにそれぞれの指標があり、進捗度を見える化し、振り返りを行いながら、継続的な改善を行っている。

 SAPジャパンの森川氏は、経費精算ツールにAIを組み合わせ承認プロセスをなくしたり、アプリを活用して管理職のレポート作成を自動化した自社の事例を紹介した。また、グローバル全体での営業成績をリアルタイムで把握・予測するツールの開発も進めている。

「クロージングの見込みが高い案件はどういうものなのかをAIに学習させており、ダッシュボードを見れば数字が一目瞭然となる仕組みです。各国のマネージングディレクターが積み上げた数字を集計するプロセスは確実になくなるでしょう」(森川氏)。

「コロナ禍はDXの進捗にどのような影響を与えたか」という問いに対してコニカミノルタの市村氏は、「当社は6、7年前からすでにフリーアドレス制を採用し、リモートワークや在宅勤務をサポートしていたので、コロナ禍に慌てることはなかった」と答えた。

 ただし、業務によってはリモートワークをする人と出社する人の差が大きかったため、その理由を解析し、リモートワーク化の推進を図った。また、リモートワーク中の従業員の状況や感情などを見える化するツールを導入し、コミュニケーションの向上やリモート業務の改善を図るなどした結果、社内のITリテラシーは上がっていったという。

 味の素もリモートワークはすでに普及していたため、迅速な対応ができたという。「ITを活用して、世の中で新型コロナと闘う人たちに対してメッセージをいち早く出したこと、同時にさまざまな支援物資を提供したことが、企業イメージや従業員のモチベーションにもつながりました」と福士氏は振り返る。

 コロナ禍によって生活者の意識と行動が変わった。健康や食事により気を使うようになり、運動も行うようになった。また、サプライチェーンも大きく変化した。「変化はリスクであり、チャンスでもあります。ウィズコロナ、アフターコロナの世界をITの力で予見して、プロアクティブなアクションを起こしていきたい」(福士氏)。

 SAPジャパンは、2020年4月の緊急事態宣言以降、現在に至るまでオフィスへの出社率はわずか3%と、ほとんどの業務がリモートワークで回っている状況だ。

 一方で、森川氏には懸念もあるという。「われわれのようなグローバル企業における、いわゆる知識労働者に関していうと、出会いによる知の増幅が少なくなっていることは否めません。過去1年を振り返って、海外の自分と同じような部署の知り合いが増えていないことも含めて、今後の働き方を考える上で大きな課題であり、個人的には非常に憂慮しています」。

データを取るだけでなく、どう解釈し、実行するか

味の素、コニカミノルタはデジタル時代の「エクスペリエンス経営」をどう実践しているかコニカミノルタの市村氏(左)とSAPジャパンの森川氏

 イノベーションには自律と規律の両方が必要であり、日本企業でイノベーションがなかなか起こりにくいのは規律がないからだと、名和氏は指摘する。

 また市村氏は、「イノベーションには10年前後の時間がかかります。テーマに応じて、しっかりステージゲートの管理プロセスを回していかないといけません。データでいろいろなことが分かりますが、それぞれのフェーズで判断軸は変えていく必要もあります」と述べた。

 デジタル技術の進展により、顧客や従業員の体験データを見える化するとともに、既存の業務データを融合させることも可能になったが、福士氏は「データを取ることはもちろん大事ですが、お客さまのアンケート結果やデータをどう解釈して、価値向上のプロセスを回していくかがもっと重要です」と強調する。

 森川氏も強く同意を示した上で、「お客さまの声を聞くだけではなく、それに基づいて意思決定を行い、それが本当に実行されるかどうかまでが一連のサイクルであると捉える必要があります。例えば、SAPがエクスペリエンスマネジメントを強みとするクアルトリクスを買収したのも、そうした背景があります」と説明した。

●問い合わせ先
SAPジャパン株式会社
TEL:0120-786-727
(受付時間:平日9:00 ~ 18:00)
URL:www.sap.com/japan/contactsap/
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