新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中の多くの企業が、店舗営業の縮小や対面でのサービス提供の自粛などを余儀なくされている。未曾有の事態に直面する中、数ある顧客接点の中でも特に重要な役割を果たしたのが、電話やメール、チャットなどで顧客の相談を受けるお客様相談部門(以下、コンタクトセンター)だ。しかしコンタクトセンターの戦略的価値が増す半面、業務量の増大に既存の仕組みが追いついていない企業も多い。日本企業はどのように策を講じるべきか、ワールドワイドの調査結果と比較しながら読み解いていこう。
コロナ禍の世界で、コンタクトセンターの業務量は増え続けている
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、対面の顧客接点からのやり取りの減少に反比例し、コンタクトセンターのオペレーターが処理する問い合わせ数が増え、コンタクトセンターの業務量が増大している。これは日本企業だけでなく、世界共通の課題である。
セールスフォース・ドットコムは、お客様相談部門(コンタクトセンター)で働く人たちを対象とする調査を実施し、その結果を年次調査レポートとして発表している。2021年3月に発表された通算4回目となる「第4回年次レポート カスタマーサービス最新事情」は、グローバルで約7000名のコンタクトセンターなどで働く顧客サービス担当者を対象に実施した調査結果をまとめたものだ(レポートへのリンクは記事末に掲載)。今回の調査は、世界的なパンデミック発生で明らかになった課題を明らかにすることを目的として実施している。その結果から、米国セールスフォース・ドットコムのビル・パターソン氏(B2B CRM担当EVP兼GM)は「顧客インタラクションのデジタル接点への移行が急加速し、リモートワークや新しい安全手順の導入といった大きな変革が起きているが、増加した仕事量に見合うリソースを確保できた組織はほとんどない」と述べている。
この現状は日本企業にも共通することが分かった。今回のレポートは国ごとの結果を個別に確認できるようにもなっている。日本の回答者は約300名。グローバルの結果と比べながら、日本のコンタクトセンター運営の現状とその背景を解説し、ニューノーマル時代のコンタクトセンター運営に向け、より良い解決策を得るための指針を提供することにしたい。
オペレーターの労働環境への投資が進んでいない日本企業
マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャー
大竹絢子氏
パンデミックに直面し、「ワークフローとプロセスを変更した」「顧客対応をよりフレキシブルにするため、ポリシーを変更した」「新しいテクノロジーに投資した」とする日本の回答比率はそれぞれ77%、73%、62%。いずれもグローバルの回答比率を下回る結果になった。
この結果は、日本企業のオペレーターの労働環境への投資が海外と比べて遅いことを示している。日本は他の国のようなロックダウンをしているわけではないため、オペレーターがコンタクトセンターに出勤することができる。そのためまだ判断している途中なのかもしれないが、不測の事態が起きた場合に備えてプランBやプランCを作っておき、いざという時は直ちに切り替えられる、いわゆる事業継続計画の策定は日本企業も必須なはずだ。
日本の回答結果を振り返り、セールスフォース・ドットコムの大竹絢子氏(マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャー)は「2020年はコンタクトセンターの価値が2つの意味で見直された」と指摘する。1つは顧客にサービスを提供する部門の運営価値、もう1つが企業全体における顧客接点としての戦略的価値だという。これまで店舗のスタッフが対応していた問い合わせまでもがコンタクトセンターに押し寄せた。例えば「明日は何時まで営業していますか?」「土日は営業していますか?」などイレギュラーな状況ゆえに発生してしまう想定外な問い合わせが増え、本来注力すべき複雑な問い合わせの電話が取れなくなってしまう。多くのコンタクトセンターは予算も人員も現状維持のままでどれだけ効率的に対応できるかが問われた。