知識や経験の暗黙知を可視化して
アグリテックに貢献する
そして今、アグリビジネスでは、最新技術によって農業の課題を解決する「アグリテック」に注目が集まっている。そのアグリテックの分野でも、知的財産の活用と保護が必要になっている。
「アグリテックで弁理士が役立つのは、生産者サイドで考える場合、無形資産の認識と保護の支援になります。例えば、栽培技術や生産技術などは“暗黙知”ですが、それを“形式知化(可視化)”することで、ノウハウ(営業秘密)という知的財産にして保護するのです」
弁理士法改正(農水知財分野)WG
座長
中山俊彦 弁理士
そう指摘するのは、日本弁理士会弁理士法改正(農水知財分野)WG座長の中山俊彦弁理士だ。
農林水産分野では、生産者が普段行っているちょっとした工夫、つまり自己の生産活動のみで用いてきた“無形資産”が、立派な知的財産になる。技術に関していえば、代々引き継がれてきた栽培法や土作りの工夫、間引きのタイミングや自分で編み出した肥料の量とバランスなど。さらに顧客リストや取引先情報、地域の人的ネットワークなども、「ノウハウ」として保護される対象になる。
「特に近年は、アグリテックで技術の伝承のため、熟練技術のコンテンツ化が進んでいます。そのために必要になるのが、生産技術のビッグデータ化で、データそのものが価値を持つようになっています。アグリテックをビジネスにするITベンダーは、生産者からデータを取得しますが、生産者はデータ利用に関する契約に慣れていない場合が多い。つまり私たち弁理士は、データ化される暗黙知を整理し、契約におけるアドバイスを行うのです」(中山弁理士)
具体的には無形資産の棚卸し、つまり生産者が有しているノウハウをテキスト化やビジュアル化(画像や動画)し、そのノウハウが開示して良いものか、内にとどめておくべきものなのかを決定する。開示の仕方はさまざまなので、開示・不開示のメリット・デメリットを知った上で決定する必要がある。その場面で、情報のコントロールにたけた弁理士が力を発揮するのだ。
農水省では現在、生産者のために「農業分野におけるAI・データ契約ガイドライン」を制定しており、具体的にその契約ガイドラインの要件化に伴うサポートも行っている。
一方、IT業者や農機具メーカーサイドの支援としては、新たなアグリテックの開発場面における知財保護がある。こちらは新規開発技術の発明要素をくくり出して権利化するなど、オーソドックスな弁理士業務として対応する分野になる。中山弁理士は意気込みをこう語る。
「今後、生産者人口の減少と高齢化はますます進み、後継者不足と熟練技術の伝承に対する課題はより深刻化します。さらに国の食料自給率向上の要請もあって、アグリテックは必要不可欠。その中で生産技術の価値を保護しながら、日本の農業に貢献したいと考えています」