地理的表示(GI)登録で特産品を保護し
利益の拡大を図る
次に、アグリビジネス分野の地理的表示(GI)という独特な知的財産について紹介する。
GIは、農林水産物・食品等の名称で、“その名称から当該産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が、当該産地と結び付いていることを特定できるもの”と定義されている。
例えば「夕張メロン」というのは、夕張(地名)とメロン(産品名)が結び付いた名称で、地理的表示の代表的なものだ。産地には、1代交配種で夕張市外に種子が出たことがないという人的要因と、昼夜の気温変化が大きく降雨量が少ないという自然的要因がある。また産品には、果肉色がオレンジで果肉は非常に柔らかくジューシー、芳醇な香りと糖度が高いという品質と、高級嗜好品として全国的な知名度を持つという社会的評価がある。
「つまり夕張メロンという名称から、産地と産品の特性が分かります。GIは、単なる産品の名称ではなく、登録するためには、長年の間に積み上げられた品質と、それに対する信頼が必要になります。それらの条件を満たして初めて“地域ブランド”化が実現されるのです」
農林水産知財対応委員会
副委員長
有馬百子 弁理士
日本弁理士会農林水産知財対応委員会副委員長の有馬百子弁理士はそう説明する。
GIは15年に施行された制度だが、これまでに「三島馬鈴薯」「鳥取砂丘らっきょう」「八女伝統本玉露」「米沢牛」など、105産品が登録されている。
GI登録されると、どのようなメリットがあるのか。まず真正な地理的表示産品であることを証する「GIマーク」の使用が認められる。これによって模倣品が排除されるほか、取引の拡大や価格の上昇、生産意欲が刺激されることで生産量が増加するなどの効果が表れる。
「特徴的なのは、不正使用に対して行政が取り締まってくれること。不正表示については、国に通報することができ、行政は、不正使用を行っている生産・加工業者に対して不正表示の除去または抹消を命令してくれます。訴訟等費用の負担なく自分たちのブランドを保護できるのです」(有馬弁理士)
さらに国家間の国際約束によって、海外における地理的表示の保護も可能となる。日本と同等水準にあるGI制度を有する外国とGIリストを交換し、相互保護を行っているのだ。例えば現在EUとの間で、EU側92産品、日本側72産品※を相互に保護する協定があり、指定された産品は、海外でも保護され、生産者が安心して輸出できるブランドになっている。
海外での不正使用では、タイで「夕張日本メロン」と表示した模倣品のメロンが流通していた事例があり、日本でGI登録されているという警告を行ったところ、名称の使用が中止されたケースがある。日本弁理士会では現在、GI登録についてのアドバイスを実施、特産品の知的財産の保護と生産者の利益の拡大を支援している。
※産品数は2021年2月1日時点