中堅・中小企業こそ
M&Aのインパクトは大
大企業の多くは、M&Aの経験がありますが、中堅・中小企業はどうでしょう。事業の規模や種類を考えると、大企業よりも大きなインパクトが得られるのではないでしょうか。
その通りです。大企業ではあまりインパクトのない案件でも、中堅・中小企業にすれば、かなりの恩恵にあずかれるはずです。そのことを知っている経営者は、M&Aを積極的に活用しています。
三井松島ホールディングスはその好例です。1913年の創業当初は石炭の生産を生業とし、日本経済の発展と歩みをともにしてきました。しかし、石炭は石油に代替され、その後は、温暖化抑止や脱化石燃料という世界的なトレンドの中、先行きはますます暗い。そこで、新規事業の開発が焦眉の急となります。
2012年から20年までの間に、飲食用資材であるストローの国内リーディングカンパニーである日本(にっぽん)ストロー、シュレッダーの明光商会など、非石炭領域でのM&Aを重ね、多角化企業に様変わりしています。
大企業では、こうした関連性の乏しい事業や小規模案件の買収は嫌われますが、中堅・中小企業の場合、むしろ多角化して企業グループを形成したほうが、機能補完によって得られるメリットが大きい。ですから、M&Aは効果的なツールなのです。
河野太郎行政改革・規制改革担当大臣は「中小企業のM&Aを仲介する専門業者の中には、売り手と買い手の双方から手数料を取っている業者がおり、利益相反になる可能性がある」と指摘しています。M&A仲介業者と、GCAのようなM&Aアドバイザリー会社には、どのような違いがあるのですか。
M&A仲介会社は、文字通り、売り手と買い手をマッチングさせることを専門にしています。さて、企業には定価がありません。買い手によって価値も変わる一物多価の世界です。売り手は少しでも高く売りたい一方、買い手は少しでも安く買いたい。つまり、利害の対立が生じます。ですから、売り手と買い手双方から手数料を取る仲介会社には利益相反があるというわけです。
このような利益相反よりも、マッチングのメリットのほうが上回るケースもあります。それは、事業承継に悩む売上高5億円以下の中小企業による小規模なM&A案件です。取引自体が小さく、交渉の幅も狭いため、売り手と買い手がおのおのファイナンシャルアドバイザー(FA)を起用して交渉に臨むよりも、仲介会社が提示する価格で合意するほうが効率的なのです。潜在的に利益相反を抱える仲介会社の存立基盤は、ここにあるといえるでしょう。
ところが、一定規模以上の事業承継案件になるとそうはいきません。売り手側にも、株主をはじめ、オーナー一族や親族などの利害関係者が存在します。「価格や契約の交渉は仲介会社に任せました」では、後々訴訟になりかねません。そこで、ある一定規模以上のM&A案件では、売り手と買い手がそれぞれの代理人として、我々のようなFAを雇うのが一般的です。
自分たちで交渉すればいいと思われるかもしれませんが、当事者同士では、まとまる話もまとまらないことが少なくありません。大企業同士の対等合併が破談になるケースがけっこうありますよね。それは、当事者同士がゴルフ場や料亭で交渉するからです(笑)。
M&Aには、財務的な側面と人間の泥臭い感情の側面があります。多くの人間の運命を左右するM&Aでは、論理的ではない、さまざまな感情やエゴが出てきます。やるべきM&Aを当事者同士が合意したならば、その後の交渉はFAに任せたほうが間違いなく成約確率が高まります。FAは財務的な側面でM&Aをサポートするだけでなく、感情やエゴというノイズを消去する役目も果たします。
M&Aは社長の仕事です。買収価格20億円以上かつ戦略的に重要案件であれば、絶対にFAを雇うべきです。
M&Aを成功させるには、PMI(買収・合併後の統合)がカギといわれています。
その通りです。メディアでは、M&Aの失敗がよく取り上げられます。しかし、失敗といわれるM&Aのほとんどが実は経営の失敗なのです。その経営の失敗とは、PMIの軽視に尽きると考えられます。
その意味で、PMIはまさしくM&Aマネジメントの要です。PMIはM&A後の作業とはいえ、「M&A前」から準備しておくことが肝要です。たとえば企業文化や歴史、仕事のやり方について、互いの違いや共通点を洗い出し、理解と敬意を深める。こうした下準備が不十分だと、無用な軋轢が生じたり、そのせいで統合によるシナジー効果がなかなか得られなかったりします。
こうした問題を回避し、幸せな結婚に導いていくのもM&Aアドバイザーの役目であり、仲介会社との大きな違いです。中堅・中小企業はコスト感度が高いので、PMIを自前でやり切ろうとしがちです。ですが、やはり冷静な第三者の存在が不可欠です。