高収益企業は
M&Aで「変革」を成功する

M&AはDXやGXを加速し、企業価値を向上させる王道

MBOで企業体質を鍛え直し
再挑戦を果たす

 そのためには、「マネジメント・バイ・アウト」(MBO)──アメリカでは、古くはリーバイストラウス、最近ではPCメーカーのデルなどが知られています──も有用な一手段であるとおっしゃっています。実際、日本でも関心が高まっています。

 MBOとは、経営陣や上級管理職が、時には従業員たちと一緒になって、自社の株式や事業を買収し、上場企業ならば非上場企業に戻って、一から会社を改革していくことです。つまり、一度リセットして、鍛え直し、再挑戦するわけです。

「TSUTAYA」を展開してきたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、2011年、MBOによる非上場化を選択します。環境変化が激しい中で、「ライフスタイルを売る」をコンセプトに事業モデルをより発展させるには、短期的な利益に囚われない長期視点での経営が必要でした。

 このMBO後、CCCは、次世代型の「蔦屋書店」や「蔦屋家電」の展開を推し進めるだけでなく、徳間書店などの出版社を買収し、独自のコンテンツの開発・提供に努め、CDやDVDのレンタルに大きく依存した、かつての事業モデルから大きく転換を果たしています。

 私は、M&Aのアドバイザリー業務に携わって三十余年になります。同時に、国内外のさまざまな企業の社外取締役を経験しました。直近15年では、自分自身が当事者として上場企業の経営にも携わってきました。その経験から申し上げると、事業は5年に一度変革しないと腐ってしまう。

 MBOといっても、その多くは投資ファンドへの売却です。投資ファンドは5年でイグジット、つまり売却します。投資ファンドは、5年間で事業価値を向上できなければ、彼ら自身が投資家に顔向けができないからです。ですから、5年間必死になって変革を後押しします。

 変革はそもそも怖いものです。痛みを伴ううえに、失敗するリスクがあるからです。ですから、みずから率先して変革するのはなかなか難しい。ましてや、上場したままでは四半期ごとの決算で利益を出し続けなければならない。変革は減益を伴いますから、なかなか手をつけられない。

 また、資本コストがあまりにも重くなりすぎると、上場したままで変革に取り組むのはますます難しくなります。そこで、MBOと称して非公開化するわけです。非上場企業になると、一般株主に代わって投資ファンドが株主になります。一般株主は、変革によって利益が減り、株価が下がれば去っていきますが、投資ファンドはその逆です。変革によって減益になっても気にしません。むしろ変革を促します。5年後の売却価値が高まるからです。

 投資ファンドは、言わば変革のコーチです。その指導を受けて、より強い事業への変革を経験し、勝利の方程式を身につけた経営者や従業員は、投資ファンドの傘下から離れた後も、中心的な役割を果たし、どんどん成長していけるでしょう。

 企業体質を鍛えるM&Aという意味では、MBO以外にも「カーブアウト」と呼ばれる手法があります。いわゆる戦略的売却です。日本では売却というと、赤字事業の撤退といったイメージがつきまといますが、カーブアウトは撤退ではありません。黒字事業であっても、自社の戦略にそぐわない事業、あるいはシナジーが期待できない事業については、当該事業をより強くしてくれる企業に売却するというものです。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOのジャック・ウェルチは、冷徹に事業の選択と集中を進めましたが、切り離された事業、たとえばエアコン事業の社員たちは「GEでは傍流扱いだったが、新しい会社では、みんなエアコンのことだけ考えているので働きがいがある」と語ったそうです。日本では、「M&Aは乗っ取り」という考え方が刷り込まれているのか、いまだにM&Aをネガティブにとらえる傾向があり、とりわけ売却に強く見られます。

 ビジネススクールで講義することがあるのですが、その際、「あなたのM&A体験について話してください」と聞いています。すると、必ずと言ってよいほど「自分の会社は買われました」と答える人がいます。そこには、負け組の烙印を押されてしまったという意識が垣間見えます。

 そもそも日本では、まだM&Aは発展途上にあります。また、多くの経営者が買収は好きですが、売却は嫌いです。どうしてそうなのか。やはりM&A後の経営が下手だからではないでしょうか。

 M&Aの成功の秘訣は何かと問われれば、私は迷いなく「被買収企業の従業員が幸せになること」と答えます。M&Aでは、買収対価を手にする売り手が最初に一番幸せになります。次いで、対価を支払った買い手が成功すると考えがちです。しかし、それは間違いです。たいてい、買い手が買収効果を出そうと焦って失敗します。それはなぜでしょう。被買収事業の従業員たちは買収対価をもらった人たちではないからです。むしろ被害者です。買収のメリットなど何も感じないのです。

 やはり「企業は人」です。だからこそ、まず被買収事業の従業員たちが「買われてよかった」と実感できるような買収効果を出さないといけない。そして、そのメリットを被買収事業の従業員たちにも享受させる。これがポイントです。そうでなければ、先のビジネススクールの学生たちのように、被害者意識が抜けず、M&Aの効果を最大限引き出すことはできません。

 日本には、近江商人の「買い手よし、売り手よし、世間よし」の「三方よし」の考え方があります。M&Aのあるべき姿も、まさしく三方よしです。ただし、M&Aでは「売り手よし、人(被買収事業の従業員)よし、買い手よし」であり、しかもその順番がとても重要なのです。買収された組織で働く人たちを含めた三方よしにできるかどうか。たとえ友好的であろうと敵対的であろうと、従業員の可能性を引き出し、それを活かせるかどうかが、そのM&Aの真価を決定します。

 さらにポストコロナの時代では、ESGスコアが高まるM&A、すなわち「社会よし」が加わった「四方よし」のM&Aが求められます。これが実現すれば、次なる成長にレバレッジがかかり、企業価値が向上し、ひいては社会に新しい付加価値がもたらされる。そういう好循環を生み出すことが、M&Aの真骨頂なのです。

聞き手|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集長)

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