データサイエンティストに頼らなくても現場担当者が自ら予測分析できる環境を整える

社員を対象とするデータサイエンティスト育成プログラムを実施するなど、全社を挙げてデータ活用に取り組むAGC。現場担当者が自らデータ分析ツールを使いこなし、製品の仕上がりや営業成果を予測分析するといった現場発の取り組みが広がっている。それを支えるツールの一つが、ソニーネットワークコミュニケーションズが提供するAIによるデータ分析ツール「Prediction One」(プレディクション ワン)だ。AGCが目指す「理想のデータ活用」について、同社 DX推進部デジタルソリューショングループの小野義之氏に、ソニーネットワークコミュニケーションズの高松慎吾氏が聞いた。

ものづくりの変革から
ビジネスモデルの変革へ

高松 AGCは、経済産業省と東京証券取引所が選定する「DX銘柄」に選ばれるなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)への積極的な取り組みが市場からも高く評価されています。まずは、どのようにDXを推進しておられるのかについてお聞かせください。

データサイエンティストに頼らなくても現場担当者が自ら予測分析できる環境を整えるソニーネットワークコミュニケーションズ
法人サービス事業部AI事業推進部
Prediction One プロジェクト リーダー
高松慎吾 氏

小野 当社のDXへの取り組みは、2020年から第2ステージに入っています。第1ステージは、工場の生産性改善や品質向上といった“ものづくり”を中心とする変革でした。

 第2ステージは領域を大きく広げ、ビジネスモデルの転換やマーケティングへのデータ活用など、AGCとしての新たな価値を創造する取り組みへと発展しています。DXという概念をあまり狭く捉えることなく、「会社全体の変革を促すもの」と位置付け、製造からマーケティング、営業に至るまで、あらゆる部門が推進活動を展開しています。

高松 小野さんが所属するDX推進部は、まさにその活動の“旗振り役”ともいえる存在だと思いますが、主にどのような役割を担っておられるのでしょうか。

小野 AGCグループ全体におけるDXやデータ活用を支援するため、各部門から寄せられる相談への対応や、人材育成などを行っています。

 例えば毎月1回、「データ活用に関する自由相談会」という社内イベントを開催しています。「どうすれば営業活動にDXを生かせるのか」といった基本的なことから、データ活用のための仕組み作りといった具体的なことまで、あらゆる相談に応え、各部門による能動的な活動を支援しています。この会の他にも、相談は随時受け付けています。

 特徴的なのは、単なるデータ活用にとどまらず、それによってビジネスにどのような成果が表れるのかということにまで踏み込んだアドバイスを行っていることです。DX推進部にも何人かデータサイエンティストが所属していますが、その多くがMBAを取得しており、その知見を基にビジネスそのものの変革もサポートしています。

データサイエンティストに頼らなくても現場担当者が自ら予測分析できる環境を整えるAGC
DX推進部デジタルソリューショングループ
マネージャー
小野義之 氏

高松 データを活用するためには、そもそもの出発点である「ビジネス課題の設定」が重要となりますが、小野さんは課題設定のための独自の手法も生み出されたそうですね。

小野 「因果連鎖分析」という手法で、個々人の経験や勘に基づく言語化できていない暗黙知も含め、課題解決に結び付く可能性のある諸要因を「因果の連鎖」という視点から整理するものです。諸要因の関係性が可視化されることで、ビジネス課題の設定に向けた部門間の合意形成がしやすくなり、分析対象とすべきデータも明確になります。その結果、課題の設定からデータ分析、その結果に基づく具体的な改善の実施まで、一連のプロセスをブラックボックス化することなく、納得性の高い成果に結び付けることができるわけです。

 この手法によって実際にさまざまな現場の課題が解決され、データ活用の有効性が認識されたことが、全社でDXを積極推進する後押しの一つになったと思います。

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