「Reimagine」(リイマジン)という新グローバル戦略を掲げ、ジャガーブランド全体のフルEV化やスマートシティへの取り組みなど、サステナブルな地球環境づくりに貢献するジャガー・ランドローバーグループ。その取り組みに込めた思いについて、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン代表取締役社長に、モビリティデータを活用したサービスを提供するスマートドライブの北川烈代表取締役社長が聞いた。
EVシフトはクルマだけでなく「新しい街や暮らし」を創造する
北川 いま世界では、日本を含む120以上の国・地域が2050年の「温室効果ガスの排出実質ゼロ」を目標に掲げています。そのような中で、モビリティも中長期的な変革が不可避だと思います。
スマートドライブにもいろいろな企業からEVシフトに関するさまざまなご相談が寄せられていますが、ただ車両をEVにするだけでなく、送電や充電のインフラをどうするかとか、発電は再生可能エネルギーにしなければいけないなど、トータルのビジョンを描くことが必要だと思います。
マグナスさんが考えるEVの未来とは、どのようなものでしょうか。
マグナス・ハンソン(以下、マグナス) EVの未来については、全体的かつ長期的なビジョンを描くことが必要だと思います。いま、世界を見渡してみると、EVの分野では非常にエキサイティングな動きが起きています。
数年前までのEVシフトは、クルマの電動化が主なテーマでした。
しかしそれは、ゼロ・エミッション化という大きな絵の一部にすぎません。インフラはいかに整えるのか、どのように発電するのかといったように、クルマそのものだけでなく、全体的なエコシステムを考えなければならないという風潮に変わってきています。
また現在、数年前とは異なる二つの大きな変化が起きています。
一つはゼロ・エミッション技術をはじめとする「環境技術の急速な進化」です。しかも、その適用範囲は広がっており、クルマによるCO2の排出量を減らすだけでなく、社会全体としてネット・ゼロ化をどう実現するかというステージに移っています。
二つ目の変化は、「技術の融合」です。
これまではEVやコネクティビティ、新しいエネルギーといった技術の開発は別々に行われてきました。
しかし、いまは「エコシステム全体を包括する技術を組み合わせていかなければならない」という議論になっています。さまざまな技術の組み合わせによって、「どんな未来社会を創っていくのか」という新しいビジョンを描き出さなければなりません。
例えば、ジャガー・ランドローバーはアイルランドに実験的なスマートシティを造ることを計画しています。さまざまな要素技術を組み合わせ、クルマだけでなく、新しい街や暮らしを創造しようとしているのです。こうした動きは、今後ますます加速するでしょう。
当社は、クルマそのものの技術だけでなく、コネクティビティにも深く関与していますし、スマートシティをはじめとするさまざまなパイロットプロジェクトを行っています。
北川 EV業界では、テスラは言うまでもなく、小型EVを製造する中国のウーリン(上汽通用五菱汽車)などの新興メーカーが台頭し、スマートドライブの株主でもある台湾の電子機器受託生産大手フォックスコンがEVの製造を開始するという話もあります。
そうした世界のEV市場、日本のEV市場の現況を、ジャガー・ランドローバーはどのように捉えているでしょうか。
マグナス 世界のEV市場は急速に拡大しています。グローバルに見ると、迅速に動いている国々ではEVシフトのためのインフラが急速に拡充しています。
EV普及のため、政府が国民への補助を拡充する動きも見られます。その結果、例えば、ノルウェーは日本と同じように高齢化が進んでいる国ですが、EVの販売台数がガソリンエンジン車をはるかに上回っています。オランダや香港も同様です。
これらの国・地域に共通するのは、政府が充電施設の整備を後押しし、国民に補助金を提供することによって、EVへの移行を促していることです。
こうした世界の動きに対し、日本の動きは比較的緩やかだったと思います。日本政府はかなり早い段階で充電施設の整備に大規模な投資を行ってきたのですが、やや時代を先取りし過ぎたのかもしれません。
せっかく整えた設備は陳腐化し、ビジネスモデルも世界の潮流にそぐわなくなってしまいました。
しかし、補助金制度などの後押しによって、日本でも今後EVの普及は加速するでしょう。国内で販売されるEVの種類は増えていますし、価格も下がっていますからね。