コロナ禍におけるテレワークやステイホームは、新しい働き方を実現させるとともに、運動不足や活動制限の長期化で、ビジネスパーソンの健康リスクを高めている。各所で生活習慣病の発症や悪化への警鐘が鳴らされている中、日本生活習慣病予防協会は、知らず知らずのうちに蓄積される「血糖負債」への注意を呼び掛けている。「血糖負債」とは何か、その正体と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という指標、改善法について紹介したい。
コロナ禍で増大した健康リスク
新型コロナウイルス感染症拡大による昨年来の断続的な緊急事態宣言で、企業のテレワーク導入が進んだ。その結果、在宅勤務に変わったビジネスパーソンの日々の身体活動量が、かなり減ってしまった。さらに、外出自粛でレジャーに出掛けることもかなわず、外食機会も減り、その一方で自宅での飲食の質も量も増えたという人は少なくない。社会的閉塞感や人と会う機会の減少によるストレス、運動不足から来るコロナ太り(体重増加)、腰痛や肩凝り、疲労感を実感している人も多いだろう。コロナ禍によって大きく変わった生活習慣は、健康リスクも増大させたのである。
食生活や運動不足を原因とする生活習慣病には、糖尿病(2型)、肥満病、脂質異常症、高血圧などがある。特に糖尿病(2型)はその代表格で、患者数は予備群を含めると2000万人といわれ、治療が不十分な場合、将来的に視覚障害や腎臓の機能低下、末梢神経障害などの合併症、心血管・脳血管疾患やがんなどの発症にも関わるといわれている。これまでどこか人ごとだった糖尿病というリスクが、意外と身近にあることを知っておきたい。
血液中にたまる「血糖負債」を示す「HbA1c」という指標
6月11日、日本生活習慣病予防協会主催の「血糖負債オンラインセミナー」が開催された。新たな生活様式が生む新たな健康リスクとして、「血糖負債」がもたらす諸問題への注意を喚起している。
「血糖負債」とは、血糖値に関わる言葉である。血糖値が糖尿病診断の指針になることは、多くの人が知るところだ。血糖値は、血液中のブドウ糖の濃度であるため、空腹時と食後では大きく変動する。順天堂大学大学院医学研究科の綿田裕孝教授によると、健常人の血糖値は空腹時に比べて食後は1.5倍程度に、糖尿病になりつつある人は2倍程度に上昇するという。つまり、血糖値は1日の中で何度も上下の変動を繰り返すため、健診で測定される空腹時、もしくは食後の血糖値であっても、いずれもある瞬間の血糖値にすぎない。
これに対し、過去1~2カ月の中長期の血糖値を表す指標が「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」である。HbA1cは糖尿病診断基準にも採用されていて、血糖をコントロールする上で医学的に最重要視されている。
医学研究科 代謝内分泌内科学
綿田 裕孝 教授
ヘモグロビンは、血液中の赤血球の成分であり、酸素を運搬する役目を担うタンパクだ。このヘモグロビンにブドウ糖が結合したものが、糖化ヘモグロビン(= HbA1c)である。血液中のブドウ糖が多ければ多いほどHbA1cは増えることになる。
食事などで血中に増えたブドウ糖は、やがてエネルギーとして利用されるが、利用されずに血液中に滞っているブドウ糖は、ヘモグロビンと結合してHbA1cとなり、赤血球の寿命約4カ月(120日)が尽きるまで血液中にとどまる。つまり、ある程度の期間残存し続けるので、過去の血液中のブドウ糖の濃度がHbA1cに反映されるわけだ。
HbA1c値は、6.5%以上で「要医療(糖尿病)」、6.0~6.4%で「要経過観察(糖尿病予備群)」と判定される。「要医療」は、速やかに適切な治療や対策が必要となる。通常は、5.9%以下で「異常なし」と判断されるが、人間ドック学会では、5.6~5.9%を「軽度異常」としている。このHbA1c値5.6~5.9%に相当するグループが、問題なのだ。健康診断で「異常なし」とされても、すでに、ある程度の高血糖状態が続いていると考えた方がいい。
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この状態を長期間放置しておくと、若干高めの血糖状態によるダメージがボディーブローのように徐々に体内に蓄積され、さまざまな健康障害が起きる可能性が高くなる。コロナ禍が長期化する今、HbA1c値が悪化しつつあるビジネスパーソンが確実に増えていることが明らかになった調査を以下に示そう。