企業経営におけるパーパス(存在意義)の重要性が指摘されるなか、社会課題の解決に挑む企業に求められる姿勢とコミュニケーションのあり方とはどのようなものなのか。たばこ会社でありながら「煙のない社会」を目指すフィリップ モリス ジャパンのエグゼクティブ・アドバイザーを務める井上哲氏と、報道番組「NEWS ZERO」のメーンキャスターを12年にわたって務めた関西学院大学の村尾信尚教授が語り合った*。

*本稿は、ダイヤモンド社が主催したオンラインフォーラム「未来を問い直す パーパス経営の実践」(5月25日配信)において行われた両氏の対談を再構成したものです。

ベターチョイスとして加熱式たばこを提案

紙巻たばこの終わりを加速させるためにビジネスモデルを根底から変えるフィリップ モリス ジャパンの井上氏(左)と、関西学院大学の村尾氏

村尾 私もかつては喫煙者だったので、本日はユーザー目線でうかがいます。健康志向の高まりとともに、たばこ業界は逆風にさらされていますが、その中でフィリップ モリスは、「たばこを吸い始めない、または禁煙することが最善の選択ではあるものの、禁煙しないのであれば、紙巻たばこから加熱式たばこに切替えてほしい」というメッセージを消費者に発信しています。

 たばこの有害性を認め、これまでのビジネスを自己否定するような呼び掛けを行ったことで、フィリップ モリスに対する社会の信頼は確実に高まったと思われますが、どのような想いでこうしたメッセージを発信しているのでしょうか。

井上 ご承知のように、フィリップ モリスは紙巻たばこの製造・販売を生業としてきた会社です。1847年に英国で創立し、1900年代に米国に進出してからは、「マールボロ」などの製品が人気を博して世界的なたばこ会社に成長しました。

 しかし、20世紀後半に入ると「喫煙と健康」の問題が米国を中心に厳しく問われるようになり、有害性に関する科学的なエビデンスが蓄積されたこともあって、当事者であるわれわれたばこ業界も、問題に真摯に向き合うことが求められました。

 そこでフィリップ モリスは、21世紀に入ってから「少しでも健康への害を減らせるたばこをつくれないか」と、スイスの研究所を中心に研究開発を重ねました。その成果として誕生したのが、加熱式たばこの「IQOS」(アイコス)です。

 IQOSは、煙が出ず、紙巻たばこと比べると有害および有害性成分の発生が約95%低減されます。ただし、まったく害がないわけではありません。

 ですから、当社は「たばこを吸わない」ことがベストであると強くお伝えし、喫煙を続ける意思を持つ人には、ベターチョイスとして加熱式たばこに切替えることをお勧めしています。