Slackを全面導入したら、デジタルファーストが加速した。気鋭の経営者たちは語る

 当初は無料版でSlackを使い始めたが、「有料版に移行してからの方が、Slackの良さをより実感できた」と、宮野社長は打ち明ける。無料版ではコメントを1万件までしか保存できないが、有料版に切り替えれば無制限。「過去のコメントを含めて簡単に検索できるので、フローのコミュニケーションで終わりではなく、ナレッジとしてストックし、活用できることが分かりました」。

 さらに宮野社長が「最高の機能」と絶賛するのが、「Slackコネクト」だ。有料プランで利用できるSlackコネクトは、社外の人とセキュアな環境でつながるための機能で、最大20社まで接続できる。「社外とのやりとりはメールを使っていましたが、今はSlackコネクトでつながるよう、社外の方にもお願いしています。メールに比べて、仕事のスピードが格段に速まります」。

 一人一人の従業員をエンパワーし、最高の顧客体験を実現するために、宮野社長はSlackによって明かりをともし続けていく考えだ。

コミュニケーションの壁を壊し、従業員のエンゲージメントを高める

「イシイのおべんとクン ミートボール」などで消費者に広く親しまれている石井食品(千葉県船橋市)。全国3カ所の工場は、3シフト制で昼夜稼働している。シフトが違う従業員同士が直接会うことはめったになく、製造ラインで働く人たちが職場でパソコンを使うことは少ないが、業務連絡や引き継ぎには何の支障もない。みんながSlackのチャンネルで情報を共有しているからだ。

 始業前後にSlackのチャンネルで連絡を取り合うことで、シフトの壁を超えたコミュニケーションが行われるほか、別の工場が投稿した製造工程の動画を見て、自分の工場のカイゼン活動に役立てるなどナレッジ共有の場ともなっている。

 また、各工場では10代から70代まで幅広い年齢層の従業員が勤務しているが、SlackのチャンネルをSNSのように使い、孫がミートボールをおいしそうに食べる写真を投稿する人などもいて、コメントや絵文字リアクションを通じた世代間交流が日常的に行われている。

Slackを全面導入したら、デジタルファーストが加速した。気鋭の経営者たちは語る雑談感覚で気軽に投稿できるパブリックチャンネル「#雑談-random」では、仕事からプライベートまでさまざまな話題が飛び交う。上の画像は生産農家を訪問した社員による投稿

 つまり、勤務時間や勤務場所、さらには世代の違いを超えたコミュニケーションとコワーク(協働)が、Slackを活用することで実現されているのである。

 創業76年の老舗食品メーカーである石井食品で、こうしたデジタルファーストの働き方が始まったのは、現在の石井智康社長が入社してからのことだ。

 創業家に生まれた石井社長は大学卒業後、コンサルティングファームでソフトウエアエンジニアとしてキャリアをスタート。2014年に独立し、主にベンチャー企業向けにアジャイル開発の導入支援や普及活動を手掛けた後、17年に石井食品に入社。翌18年に社長に就任した。

Slackを全面導入したら、デジタルファーストが加速した。気鋭の経営者たちは語る石井食品
石井智康代表取締役社長執行役員
2006年6月アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(現アクセンチュア)に入社。ソフトウエアエンジニアとして、大企業の基幹システム構築やデジタルマーケティング支援に従事。14年よりフリーランスとして、アジャイル型受託開発を実践し、ベンチャー企業を中心に新規事業のソフトウェア開発およびチームづくりを行う。17年、祖父が創立した石井食品に参画。2018年6月より現職。

 IT業界から伝統的な食品業界に転じ、カルチャーショックは大きかったという。「メールどころか、まだ電話、ファクスの文化で、会議をするのに工場から資料が送られてくるのを待つ“ファクス待ち”の時間があったのは衝撃でした」(石井社長)。

 コミュニケーションの中心は電話で、パソコンやメールアドレスを持っている従業員は一部のみ。そのため、社内のあちらこちらでコミュニケーションの齟齬があったという。

 石井社長が入社して最初に行ったのが、全国の拠点を回って、課題を洗い出すこと。そこで分かったのは、どの営業チームも、工場も、本質的には同じ問題意識を持っているのに、必要な情報が共有されていないということだった。

 「営業サイドは『新商品が少ないし、商品開発が遅く商談に間に合わない』と主張する一方、工場は『開発する商品が多くて忙しすぎる』と言います。双方の言い分を深掘りすると、『商品開発は目まぐるしくしているのに、商談のタイミングで商品のリリース情報が伝わっていない』ということでした。結局はお互いの仕事の状況を分かっていないだけだったのです」と石井社長は振り返る。

デジタルインフラを整備すれば、自発的に動く人が増える

 そこで石井社長は、コミュニケーションの壁を壊すために、Slackの導入を決断。まずは、マーケティングチームと執行役員以上のメンバーで無料版の利用を始めた。石井社長が関わるプロジェクトでSlackの活用を推進すると、参加メンバーが周りの従業員を招待し始め、利用者は加速度的に増えていった。

 利用者の増加によって、会社全体での管理が必要になってきたタイミングで有料版に移行した。無料版の導入から約1年後のことである。現在は、パートを含む全従業員約550人の8割ほどがSlackを活用している。

 かつては互いの足並みがそろっていなかった営業と工場も、今ではSlackで密接につながっている。例えば、同社では毎年春に、年末に販売するおせち料理の仕様を決める。仕様は販売先の小売業ごとに異なる。その仕様を確認したり、製造の進捗状況を知るために、営業と工場は頻繁に電話で連絡を取り合っていたが、現在では「#pj_おせちquestion2022」というパブリックチャンネルを立ち上げて、最新の情報を共有している。

 また、売り場の声や写真が日々投稿されるチャンネルには工場の従業員も参加しており、営業と工場が一緒になって商品や製造プロセスのカイゼンを議論することもある。

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