50年後の豊かさと持続可能性が両立する社会づくりに向けて、三菱総合研究所がその有効な手段として提唱するのが、革新的な技術による社会変革である「3X(スリーエックス)」と新しいコミュニティ「共領域」である。連載第1回のデジタル地域通貨サービスに続き、今回は「防災」の新しいアプローチについて紹介する。
3Xは、自然災害・感染症という不確実性が高く、かつ重大なリスクとなる課題への対応の在り方を、大きく変えようとしている。DX(デジタル)、BX(バイオ)、CX(コミュニケーション)という3つの革新的なテクノロジーのうち、デジタルとコミュニケーションのテクノロジーを活用した「パーソナル防災」という新たな概念について解説する。
災害復旧費の増大、インフラの老朽化
防災に求められる新たなアプローチ
自然災害の多い日本では、従来、建造物やインフラ施設を中心に、社会がそれに耐えられるものにする、という方向で災害対策・対応がなされてきた。しかしながら、近年の度重なる自然災害の発生により、災害復旧費の支出が膨張し、国の防災関係予算のうち災害予防には2割程度しか配分できない状況となっている。さらに、耐用年数を超えて老朽化するインフラも直近10年で大きな課題と
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災などをはじめ、私たちはこれまで多くの被災者を出した激甚災害を目の当たりにしてきた。地震、風水害、土砂災害などの自然災害に加え、現下では新型コロナウイルス感染症にも翻弄されている。これから先、特に日本では、気候変動の影響で激甚化する気象災害とともに、既に発生してもおかしくない時期にある首都直下地震、2035年の前後10年以内に発生する確率が高いとされる南海トラフ地震への備えが必要となる。
災害時には、例えば阪神・淡路大震災を契機に年代を問わずボランティア活動が常態化するなど、厳しい経験から新しい支援意識と行動が生まれるという一面もある。社会意識についても、2019年の台風19号では、鉄道会社がいち早く運転を見合わせ、企業もその計画運休の動きに合わせた従業員対応を行った。つまり、企業も経済利益を追求するだけでなく、被害を最小化するためにバランスの取れた「リスクに備える行動」を決断したのだった。これは自助・公助を補完する社会のコンセンサスづくりを企業がリードした、これまでとは異なる共助の芽生えといえるだろう。さらに、SNSでも個人の事前対策を促す情報が流れ、多くの人が個人の備えを事前に補強し、また、災害情報を基に事前に避難所やホテルに移動するなどの行動を取った。日本全国の共助で、台風が直撃する地域の「自助」を高める動きも見え始めた。