2021年4月、NECは企業のDXを支援するデータドリブンDX事業部を新設した。活用するのは、NEC発のAIスタートアップが開発した世界初のAI自動化技術「dotData」だ。データサイエンティスト不要のこの技術は、現場人材をDXの主役にすることで新たなインテリジェンスを生み出すだけでなく、仕事のやり方や働き方、カルチャーさえも変えてしまうほどの力を秘めているという。

データの真価を
引き出すことができるか

編集部(以下青文字):いまや世界的バズワードとなったDXは企業にとって最優先課題です。とはいえ、思い描くDXの姿はさまざまです。

dotData Japan  代表執行役社長
NEC グローバルイノベーションユニット  エグゼクティブ・ディレクター
 森 英人 HIDETO MORI
IBMにて30年にわたりデータアナリティクス分野に携わり、その後、日本テラデータにて執行役員としてアナリティクスビジネスコンサルティング部門を統括。2018年にNECに参画し、dotData日本法人の代表執行役社長に就任。日本市場における営業、マーケティング、カスタマーサクセス、サポート&サービスデリバリーを統括し、企業のデータドリブンDXの実現を後押ししている。

森(以下略):DXに期待されるのは、「破壊的な効率化」「劇的なビジネスモデル変革」「革新的な顧客体験」の大きく3つが挙げられます。

 単なるデジタル化で終わってしまっては期待通りの成果は得られず、他社との差別化もできません。デジタル化によってあらゆる企業活動がデータ化される時代だからこそ、そのデータを活かすことで、初めてデジタル化の先にある世界にたどり着くことができる。DXの成否は、この「データドリブンDX」を実現できるかで決まります。データドリブンDX=勝ち組のDXだといえます。

 単なるデジタル化とデータドリブンDXは、具体的にどう違いますか。

 わかりやすい例が、ストリーミング配信会社のネットフリックスです。創業時はCD、DVDなどのレンタル事業が主でしたが、ストリーミング技術を活用してオンラインによる配信サービスを開始しました。映画やドラマなどのコンテンツを家に居ながらにして返却期限なしで視聴できる新サービスは、たしかに顧客体験の変化をもたらしました。とはいえ、この時点では単にデジタル化を成し遂げたにすぎません。

 では、ネットフリックスが成し遂げたトランスフォーメーションとは何か。それは、コンテンツ配信者からオリジナルコンテンツ製作者への転換です。データを詳細に分析することで、単にリコメンドするだけでなく、視聴者が望むストーリー展開、配役などヒットの要素を突き止めたうえで、確実に当たるコンテンツをみずから製作、配信し、会員を巻き取る作戦に打って出たのです。ビジネスモデルを劇的に変化させたデータドリブンDXの好例といえます。

 もう一つの例が、アマゾン・ドットコムの即日配送です。同社は商品の調達、受注から配送に至るまでを自社で手掛ける小売企業ですが、蓄積した膨大な購買データを分析し、いつどこで何がどれだけ売れるかを精緻に予測することで、的確かつ無駄のない在庫管理、配送が可能となっています。その結果、発注したその日に商品が届く「当日お急ぎ便」も誕生させ、他社には真似のできないモデルをつくり上げました。

 こうした両社の成功は世界中の誰もが知るところですが、彼らは単なるデジタル化ではなく、データドリブンDXを通じて「破壊的な効率化」「劇的なビジネスモデル変革」「革新的な顧客体験」を実現し、圧倒的ポジションへと上り詰めました。

 こうしたデータドリブンDXを実現できない企業において、それを阻んでいる壁は何でしょうか。

 それは、データドリブンDXに不可欠な「データに基づく予測分析」が人依存、人海戦術であることです。というのも、予測分析プロジェクトは一般的なシステム開発と同様に「ウォーターフォール型」で進められていることが多く、分析に利用するデータをあらかじめ決めてから、「特徴量設計」(予測したい課題に対して高い相関性がある過去の事象の探索と変数としての定義)を経て、機械学習を行い、予測モデルを作成します。これでは分析前のデータ準備において検討だけでも多大な時間と労力がかかるだけでなく、分析に利用したいデータ項目を後で思い付いても、追加することもままなりません。また特徴量設計に関しても、分析者の業務知見・経験に依存し、その仮説検証プロセスに膨大な時間を要するという弱点を抱えています。

 さらにはデータ処理作業が多いことから、データサイエンティストやデータエンジニアなどのデータ分析の専門家に労力が偏りがちです。しかし本来は、売上増やコストダウン、品質改善などビジネスの具体的課題を持っている現場人材こそ、DXの主役となるべきなのです。