データサイエンティスト不要の
革新的技術

  AIツール「dotData」はビジネスを熟知する現場人材がDXの主役となり、差別化されたDXを実現するための画期的なソフトウェアだと聞いています。これを開発したdotData,Inc.(以下dotData社)はNEC発のAIスタートアップですが、社内事業としてではなく、 社外資本も得ながらスタートアップとして切り出した「戦略的カーブアウト」のスキームで展開しています。

 dotData社は、最初からグローバルな市場をターゲットにしたい、世界中の優れた人材を集めたいという狙いから、2018年にNECから戦略的カーブアウトして、シリコンバレーで創業しました。ただし事業提携によって、日本国内での展開はNECが担当しています。

 2019年にはアメリカのフォレスター・リサーチより、「機械学習自動化ソリューション分野における世界のリーディングカンパニー」として認定されました。設立後わずか1年という短期間で世界的高評価を受けた理由は、予測分析に不可欠な特徴量設計を完全自動化したことで、現場人材がみずからデータドリブンDXを実践できる点にあります。

「特徴量設計の完全自動化」という革新性は、DXを目指す企業にどのような価値をもたらすのでしょう。

 データに基づく予測分析においては、データを揃えるだけでは機械学習を実行できません。先にお話しした特徴量設計が不可欠です。

 従来、この特徴量設計は、業務知見のある専門家が仮説を立て、その検証に必要なデータをエンジニアが用意し、統計の専門家がそのデータと仮説を照らし合わせて相関性を検証するプロセスを何度も繰り返す、非常に泥臭い作業です。たとえばコンビニでのおにぎりの売れ行き予測をする場合、お天気が関係あるか、路面店かテナントビル内かといった店舗ロケーションが関係あるかといった仮説を、実際の売れ行きと照らし合わせて検証するトライ・アンド・エラーがそれに当たります。ところがdotDataでは、これをAIによって完全自動で行います。 

 もちろん予測精度は折り紙付きです。データサイエンティストのオリンピックといわれる「Kaggle(注)」でのウォルマート需要予測コンペティションにおいて、5500チームの中で、dotDataは上位1・8%に食い込む好成績を収めました。しかもその所要時間は、数時間の人手作業も含めて、延べ150時間。他チームの平均所要時間4カ月を圧倒的に凌駕し、大きな注目を集めました。

注)世界中のデータサイエンティストが集まるプラットフォームおよびその運営会社。毎年さまざまなテーマで課題解決を競うコンペティションが開催されている。

 これまでデータドリブンDXの成功は、多くの専門家集団を抱えられる一部企業のみが可能だと思われてきました。しかしdotDataのAI技術によって、あらゆる企業にそのチャンスが巡ってきたのです。

 また、従来の予測分析では最初から完成された巨大なデータ基盤が不可欠とされていましたが、dotDataでは目的ごとに、かつ最初は手に入る少ないデータからのスモールスタートが可能です。ある一つの課題を決めて、とりあえず手元にあるデータを使って分析すればいい。人間の労力は不要で時間もかからないので、その結果を見て、精度を上げたり新たな知見を見出すために、思い付いたデータがあればすぐに追加してみることができます。一晩dotDataを回して翌朝に結果を確認し、納得がいかなければ違うデータを追加してみる。こうしたアジャイル的なアプローチが可能なのです。

 このように、dotDataは人間のひらめきを新たな知見に変えるとともに、データ分析のアプローチを「ウォーターフォール型」から「アジャイル型」へと、根本から変えました(図表「機械学習アプローチを革新的に変えたdotData」を参照)。当たり前のことですが、AIはいくら酷使しても疲れることはなく、残業もいといません。人材不足が叫ばれているデータ分析の専門家に頼ることなく、ビジネスの知見を持った現場人材がデータドリブンDXの主役になることができます。これはデジタル時代において、仕事のやり方や働き方、カルチャーさえも変えてしまうほどの力を秘めているのです。