創業78年目を迎えた八芳園は、ウエディング事業を中心に宴集会場・レストラン事業などを展開する「おもてなし」企業。ウエディングから派生した新サービス・商品の開発にも熱心だ。しかし一方で、サービス業界に共通する人件費の高騰や働き方改革の遅れに悩まされ、ブライダル業界の少子化、晩婚化による市場の縮小という深刻な課題も抱えている。唯一の打開策はDXの推進による「変革」。八芳園の薮嵜(やぶさき)正道取締役経営管理部長のチームは、まず紙に埋もれていた業務のIT化などを進めて「守りのDX」を軌道に乗せた。続いて、顧客獲得を目的とした「攻めのDX」を推進。そんなさなかにコロナ禍に見舞われたが、八芳園の変革は、ゲストが参集できないコロナ禍の結婚式に対応したハイブリッド披露宴を生みだした。
薮嵜正道 取締役経営管理部長
イノベーションの手段としてのデジタル
八芳園のDX(Digital Transformation)は、Digitalよりも変革を意味するTransformationに重きを置いている。その理由を薮嵜正道取締役経営管理部長は、「縮小するブライダル業界の中で勝ち抜くためには、イノベーションを起こさざるを得ないのです。イノベーションの手段の一つとしてデジタルがあった」と説明する。
八芳園が解決すべき課題は多岐にわたった。
「世の中のデジタル化によって、サービス業界を取り巻くインフラ環境が大きく変わりました。ガバナンス、コンプライアンスの側面でいうと、SNSによる口コミ、情報漏えい、好ましくない画像の流出……。しかし私たちは、それらに対応する知識をほとんど持っていなかった。デジタル化ももちろん進んでおらず、例えば社員が総務部門に提出する残業報告書などは紙でした。何よりも、人の労働に頼る労働集約型産業なのに労働環境の改善が遅れていました」
そこで薮嵜経営管理部長は、紙をデジタル情報に置き換えるデジタル化、続いてデジタル情報を活用するIT化の順で社内にデジタル文化を定着させ、目的であるDX化に近づいて行った。最初に手を着けたのは、デジタルに対する “食わず嫌い”を直すことだった。薮嵜取締役経営管理部長は、デジタルによって個々の社員が抱える課題を解決し、小さな成功体験を積み上げることにより抵抗感を薄めていくことを意識して導入ツールを選んでいった。
プライベートで多くの人が使っているチャットツールの導入が最初だったが、それでも抵抗感が強く「定着するまでに10カ月ほどかかりました」。