新型コロナ第6波対策の鍵。変異株も含めたウイルスをいち早く検出し、安心・安全な社会の実現に貢献するPCR検査とは

2021年末現在、新型コロナウイルスの感染拡大は日本においては落ち着いているものの、新たな変異ウイルス、オミクロン株の出現で、世界では再拡大の兆しが見えており、日本でも第6波の襲来が懸念されている。政府は第6波に備えて対策を打ち出しているが、中でも重要となるのが感染の早期発見で拡大を防ぐための検査体制の整備・拡充だ。果たしてPCR検査は第6波を食い止める切り札となるのか。PCR検査で世界をリードするサーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ代表の室田博夫氏に、フリーアナウンサーで東洋学園大学教授の八塩圭子氏が話を聞いた。

ワクチン開発・製造やPCR検査の迅速化・大規模化に貢献

八塩 新型コロナウイルスの感染拡大で、サイエンスサービス企業の役割が大きくなっていると思います。まずは御社の事業展開からお話しいただけますでしょうか。

室田 当社は米国のボストン郊外に本社を置き、規模的には全世界で10万人以上の従業員を擁し、売上高が約4兆円の企業です。

「サイエンティフィック」という名前が示す通り、広くサイエンスに関わる企業で、主に医療、研究、産業用といったところで使われる分析機器、試薬、サービスなどを扱っています。非常に幅広い製品とサービスを提供していますが、全てが「世界を『より健康で、より清潔、より安全な場所』にするために、お客様に製品・サービスを提供する」という当社のミッションに沿っています。

 日本においては、いろいろな会社が統合して現在に至っているのですが、事業を展開して60年以上になります。

八塩 新型コロナが世界中に拡大する中で、サイエンスに関わる企業として、感染拡大防止にどのような役割を果たされてきたのでしょうか。

新型コロナ第6波対策の鍵。変異株も含めたウイルスをいち早く検出し、安心・安全な社会の実現に貢献するPCR検査とはサーモフィッシャーサイエンティフィック
ジャパングループ代表
室田博夫氏

三菱商事、ZSアソシエイツなどを経て、シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス代表取締役社長兼CEOなどを歴任。2016年サーモフィッシャーダイアグノスティックス代表取締役、17年にサーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループ(国内6法人)代表に就任し、経営とビジネス戦略を統括。日本国内における革新的な先進医療研究、科学研究の発展を支援すべく、事業を推進している。

室田 大きく三つの分野で貢献してきたと考えています。まず一つ目は、ワクチンや治療薬を開発する過程において、当社の「クライオ電子顕微鏡」が活躍しました。ウイルスの表面構造の詳細な三次元画像を確認することによって、感染メカニズムの研究が進みました。

 二つ目はスピードが求められるワクチンの製造過程において、当社のシングルユース技術(細胞培養槽などを従来のステンレス製から使い捨ての樹脂製にすることで、洗浄や滅菌が不要となり製造を効率化できる技術)によって、迅速な製造体制の立ち上げが可能となりました。

 三つ目はPCR検査の迅速化・大規模化への貢献です。新型コロナが世界に広がってもう2年近くになりますが、分かっていないことも多い感染症との闘いは、スピードとの勝負でした。医療用の検査を提供している企業として当社は、いかに早く信頼できる検査を行える体制を構築するかということを第一に、感染が始まった早い段階から開発に着手しました。

 いろいろな規模の医療機関あるいは検査所で使っていただける検査機器の開発だけでなく、検査規模の拡大も急務でしたので、1日に最大8000検体ものPCR検査が可能な自動化されたシステムを早期に開発し、導入しました。

新型コロナ第6波対策の鍵。変異株も含めたウイルスをいち早く検出し、安心・安全な社会の実現に貢献するPCR検査とはフリーアナウンサー
東洋学園大学教授
八塩圭子氏

1993年テレビ東京入社。報道局経済部の記者を経てアナウンス室に異動。 2003年、同局を退職しフリーアナウンサーとして活動を開始。02年からから法政ビジネススクールでマーケティングを専攻、04年修了(MBA取得)。テレビ・ラジオのMC、報道、情報番組のコメンテーターのほか、16年からは東洋学園大学現代経営学部で教鞭を執る。

八塩 PCR検査については当初、キャパシティーが不十分であるとか、結果が分かるまで時間がかかり過ぎるなど、さまざまな課題が指摘されていました。そのような課題にどのように対応されてきたのでしょうか。

室田 そうですね。まず当社としては、病院から検査所まで、さまざまな規模の検査機関のニーズにスピーディーに対応できるリアルタイムPCR検出キットの開発を迅速に行いました。

 また、1日にどれくらいの処理ができるかというキャパシティー拡充にも取り組みました。八塩さんがご指摘されたように、当初、日本の検査件数はなかなか伸びなかったので、1日に最大8000検体を処理できる大幅に自動化したPCR検査システム「Thermo Fisher Scientific™ Amplitude™ Solution」(以下、アンプリチュードソリューション)を早い段階で開発し、導入しました。

 それからもう一つ、重要な取り組みがあります。ウイルスは変異するので、どんな変異を起こすのか、どのような変異株が日本に入ってきているのか、ということを検出するための研究用PCR試薬も開発し、これによって現在は61種類の変異の検出ができるようになっています。