「適切な投資」は社会課題の解決にも役立つ

――確かに、お金の準備だけでは万全とはいえない面もありますが、ある程度の資産形成は必要です。社会全体から見ると、投資はどうあるべきだと思いますか。

 重要なのは、私たちが行っている消費や投資のお金が労働の配分を決めているということです。つまり、その配分によって「未来」がつくられています。

 消費によって支払われたお金は、その商品やサービスを提供した人に支払われるので、今の私たちのために働いている人に流れていきます。一方、投資のお金は、今すぐ誰かの幸せにつながるわけではありません。ただ、未来の社会がより良くなるために働いている人に流れていきます。

 要するに、投資を増やすことは、「未来のために働く人を増やす」ことを意味し、何に投資するかは「どんな未来にしたいか」を表しています。

 例えば、ロボットの研究をする企業に投資し、その研究によって介護ロボットができれば、未来の社会における介護の負担を減らすことができます。つまり、投資を適切に行うことが社会課題を解決する助けにもなるわけです。

 私たちが今、情報技術の便利さを手に入れられているのは、この数十年、情報技術に多くの投資が行われてきたからです。

 環境や社会規範、コーポレートガバナンスの順守を重視したESG(環境・社会・ガバナンス)経営や、2030年までにより良い世界を目指す国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業への投資が今、注目されているのは、まさに「こういう未来になってほしい」という人々の意志の表れといえるでしょう。

なぜ、元ゴールドマン・サックスのトレーダー田内学は「長期投資」推しなのか?お金の向こう側に見える「未来」とは

――未来の人を幸せにする投資のポイントは何でしょう。

 望むべき未来を実現するには、「長期投資」をする必要があります。先ほどお話しした情報技術の開発のように、投資した企業の事業が成長し、多くの人がその恩恵を享受できるようになるには時間がかかります。

 私たちが今こうして快適で便利な生活を送れるようになっているのは過去の人たちが、消費だけでなく投資にもお金を使ったからです。その投資されたお金を受け取った人々が未来のために働いて、より良い社会をつくってきたのです。

 私たちも未来の人たちへの責任がある。長期投資=余裕資金での投資と考えがちですが、そうした未来のことも含めて投資を考えたいですね。

「誰のために、誰が働くことになるのか」という視点で投資を

――実際に「これから投資を始めてみよう」という初心者はどのような点を心掛けるべきでしょうか。

 日々の株価の動きにとらわれて、この株が今上がりそうだからと買ったり、株価チャートの分析などに時間を費やしたりするよりも、投資したお金で「誰のために、誰が働くことになるのか」、あるいは「未来の誰かがきっと幸せになる」という視点を持つことが大切だと思います。

 要するに、社会全体の視点で見ると、短期的な株価の変動は意味がありません。重要なのは投資によって生み出された効用です。株価が「上がった」「下がった」で、一喜一憂するよりも、その投資によって「未来に幸せになる人がいるのなら納得する」という視点で投資すべきではないでしょうか。

 例えば、先に述べましたが、介護ロボットの開発企業に投資すれば「介護で困っている人のために、従業員が働く」ことになる。このように人々や社会とのつながりが見えてきて、ESG投資のような発想も生まれてきます。

 半面、お金を集めたいだけの企業の銘柄への投資、お金をもうける目的での投資は「未来のためにはならない」かもしれないことを自覚すべきです。

 投資した企業が成長して株価が上がり、思っていた通り、多くの人々が幸せになれば、投資のリターンも大きくなっているはずです。

 企業を選ぶ自信がない人は、運用を専門家に任せられる投資信託を利用するといいでしょう。投資対象は何か、どんな方法で運用するかなどをチェックすると、その投資信託の特徴が分かります。

――例えば、アプリ証券「CONNECT」では、1株から始められる「ひな株」、毎日100円から積み立てられる「まいにち投信」など、若い人や初めての人でも手軽に始められる商品がそろっています。

「投資」っていうと、面倒くさそうなイメージありますけど、このアプリだと簡単に投資できますね。ネットショッピングするのと同じ感覚で。

 大げさだと思うかもしれませんが、消費に回していたちょっとした出費を、投資にまわすだけで、未来の社会は変わります。お金を受け取る人が、現在の自分のために働くのではなく、未来の社会のために働くことになるんです。まさに「まいにち投信」みたいに、100円単位で投資する感覚でいいと思います。コツコツお金を貯めているんじゃなくて、コツコツと未来のために働く人を応援することにつながります。

 未来の社会を考えるなんて難しそうですが、身近なことでもいいと思うんですよね。例えば「ひな株」を使うと1株単位で株が買えるので、お気に入りの商品を作っている企業を気軽に応援することもできます。

 投資は、自分一人の財布の中の話ではありません。未来の社会の話でもあります。

 重要なのは、とにかく始めてみること。財布のむこう側に広がる社会をグッと身近に感じられるはずです。社会全体のお金の流れの半分以上を決めているのは個人による消費や投資です。実は、個人一人一人が未来を決めているんです。