ハード面でのバリアフリー化は進んだが、ソフト面の進展は?
東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を機に、ハード面でのバリアフリー化は進展した。その一方、ソフト面での進展はどうだったのだろうか。
「東京都では3年に1度くらい、バリアフリーに関する都民意識調査を行っていますが、それを見ると、課題はそれほど解決していないことが分かります。障害者の問題に関わっている人々の理解度は高いのですが、社会にはまだ圧倒的なバリアが存在します。いくらハード面のバリアフリー化が進んでも、人々の習慣や態度、気持ちは簡単に変わらないからです」(高橋氏)
いま高橋氏が期待しているのは、2021年4月に施行された改正バリアフリー法で、公立小中学校のバリアフリーが義務化されたことだ。車いすトイレやエレベーターの設置、段差の解消などが推進され、視覚・聴覚障害のある生徒のための設備や、パニックになる子どもが落ち着くためのスペースも検討される。全ての学校がバリアフリー化されれば、これまで入学を断られていた障害のある児童生徒が、友だちと一緒に地域の学校で学べるようになる。
「小中学校のバリアフリー化が進めば、子どもたちは小さい頃から、障害のある人たちのことを自然に考えられるようになります。先生方も、インクルーシブな教育の環境について理解と経験を深めていくことができます。差別はおそらく、永遠になくならないものですが、その差別や偏見に気付くことが、とても重要なのです。東京2020オリンピック・パラリンピックが終わったいま、ソフト面でのバリアフリー化は、これからが本当の正念場になると考えています」(高橋氏)
もう一つの課題は、都市と地方に生じているバリアフリーの格差だ。例えば東京2020オリンピック・パラリンピックでは「共生社会ホストタウン」という取り組みがあった。自治体が、障害のある選手たち(パラリンピアン)を迎えることをきっかけに、住民の意識を変えながら、UDの街づくりや心のバリアフリーに取り組み、地域主導で共生社会の実現を加速していこうという試みである。
「“共生社会ホストタウン”の取り組みは、地方のバリアフリー化が進展する良い機会だったのですが、登録した自治体の数が少なかったことが残念でした。またバリアフリー法の中に、街の面的・一体的なバリアフリー化を推進する “バリアフリー基本構想”という制度があるのですが、その制度を策定している自治体もまだ2割弱しかありません。東京2020オリンピック・パラリンピックの成果を基に、都市と地方の格差の是正が行われていくことを期待しています」(高橋氏)