日本の健康無関心層は
6割に及ぶ
矢野 ウェルビーイングは実感としての幸せと言い換えてもいいと思いますが、国連の世界幸福度ランキングでは日本は50位台と低迷しています。これにはさまざまな要因が絡みますが、中でも幸福度と健康には強い相関性があり、ウェルビーイングを高めるには、健康度を高めることが必要です。しかし、日本では「健康無関心層」が6割に及び、健康でない人がますます不健康になる構造があります。
今の自治体などの健康政策は、ハイリスク者へのアプローチがメインで、少しずつマス(集団)を対象にしたポピュレーションアプローチに移行していますが、これでは健康無関心層を動かすのは難しい。
無関心層の行動を変えるために重要なのは、彼らを十把一絡げに捉えるのではなく、その要因の丁寧な分析、把握に基づく個別介入です。当社では、個人の性格や価値観、趣味嗜好、認知バイアスまで蓄積した独自の「人間情報データベース」(※)を使い、健康への無関心の要因を分析しました。すると、ウェルビーイングは個人的要因に加えて、個別具体的な環境要因にも大きく左右されていることが見えてきました。
私たちが目指すのは、健康無関心層に向けた自治体のポピュレーションアプローチに、データに基づいた個別化アプローチと環境要因解消を加える、独自のハイブリッドな仕組みです。
国民皆保険の恩恵である
「宝の山」を活用せよ
——従来型のマスアプローチに個別化アプローチを組み合わせる上で、日本の強みは生かせるのでしょうか。
柳 日本は国民皆保険を世界に先駆けて導入し、WHO(世界保健機関)からも高く評価されています。ただ、導入が早過ぎたためにIT化を前提とした制度になっていないこと、医療機関の大部分を民間が占めていること、また、データを保有する健康保険組合などの保険者も分立しているなどの理由から、膨大な医療情報が標準化されないまま散在し、十分に活用されていないという課題があります。
任意保険が前提となった国では、集まる医療情報が富裕層に偏る傾向がありますが、日本は皆保険なので幅広いデータを豊富に集めることができます。世界のウェルビーイングに貢献できる価値あるデータだけに、それが活用されていないのは非常に残念なことです。
矢野 実はデータの中でもレセプト、特定検診、保健指導の結果を集約する日本のNDB(National Database)は世界有数の規模で、非常に信頼性の高いデータを集めており、政策立案の基盤になったり、研究機関で使われたりしています。惜しいのは、それらのデータが診療側の情報に偏っており、診療を受けた患者さんがその後回復したのか、悪化したのかといったアウトカムデータが含まれていないことです。
ユニット長/パートナー
矢野勝彦 氏
そこで、アウトカムデータの収集や利活用を進めるための法整備、標準化のための基準作り、情報基盤のインフラ整備などが、今まさに国を挙げて行われており、当社も支援させていただいています。18年に施行された次世代医療基盤法では、一般社団法人のライフデータイニシアティブと日本医師会医療情報管理機構の2団体が認定されています。日本はこれらの取組を急ぎ、世界をリードできる国家レベルのDBの仕組みとする必要があります。
柳 X線やCT装置、内視鏡の診断系医療機器をはじめ、日本が強みを持つ診断・治療薬などについての国際展開も進むことが見込まれます。将来的には人工知能(AI)診断センターをアジアに展開することもできるでしょう。加えて医療情報の収集も担う新たな機能を提供できれば、アジア各国の医療政策との連携も可能だと思います。