国内外の電気事業をリードしてきたJ-POWER(電源開発)は今、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて本格的に動きだしている。軸になるのは、再生可能エネルギーの拡大とCO2フリー水素エネルギーの商用化だ。そのミッションはどの程度進捗しているのか。同社の菅野等取締役常務執行役員に、気鋭の脳科学者である中野信子氏が聞いた。
中野 現在世界では、脱炭素化への取り組みが加速しています。J-POWERではカーボンニュートラルの実現を目指すJ-POWER“BLUE MISSION 2050”を掲げています。どのような内容なのですか。
菅野 カーボンニュートラルと水素社会の実現を目指すロードマップです。具体的には、発電事業におけるCO2排出量を2030年に40%(※1)削減、50年に実質排出ゼロを目指します。そのためには、風力などの再生可能エネルギーを最大限導入すること、石炭火力発電をCO2フリー水素による発電に置換していく必要があります。さらに再生可能エネルギーを消費地に送電するため、電力ネットワークを増強・安定化する必要もあります。“BLUE MISSION”と名付けた理由は、宇宙から見える“青く美しい地球”を維持したいからです。“地球に暮らす70億の人類が生きていくための環境を守る使命”という意味が込められています。
中野 その言葉に100%同意します。地球は意外とレジリエンスが高く、脆弱なのは地球ではなく人類の方。だからまさに「人類の生存に適した地球」に優しいと言うべきなのですね。
北九州の響灘で
大型洋上風力発電所を建設予定
中野 ところでJ-POWERは、早くから再生可能エネルギーの開発に取り組まれてきましたね。
菅野 設立以来取り組む水力発電や、2000年からいち早くスタートした風力発電など、多様な再生可能エネルギーの技術・経験を蓄積してきました。現在、25年度までに150万キロワット規模の新規拡大(※2)を図っています。その軸となるのが風力発電事業。英国の「トライトン・ノール洋上風力発電所」のプロジェクトに参画してエンジニアを派遣、技術力の習得に努めています。北海にある同発電所は世界最大級で、今年から本格的に営業運転がスタートする見込みです。そこで培った建設・運転・保守の知見を、国内の洋上風力発電の拡大に生かそうとしています。
中野 日本の場合、災害の多い複雑な地形を縫うように運行されている新幹線もそうですが、風力発電の設置場所は台風の進路に当たる可能性もあり、かなり技術が必要になるのでは。
菅野 おっしゃる通り、一定方向の偏西風がある欧州と違って、日本は季節ごとに風向きが変わり、台風もあって風況は安定しません。海底の地形や地質も異なります。そうした日本特有の条件に合わせて、技術を確立させていけるかが重要になります。現在当社では、北九州の響灘で22年度の着工を目指して大型洋上風力発電所の建設準備を進めています。トライトン・ノールと同等出力の巨大風車20数基で、最大22万キロワット規模は、日本の洋上風力発電のエポックメイキングとなる存在です。