日本の商習慣で今、一番の課題となっている請求業務。作業が煩雑で、売掛金回収のためとはいえ、精神的負担も伴い、社員が疲弊したり、社内の士気を下げることに課題を感じている経営者は多いはずだ。また、掛け売りの販売では顧客の与信審査が不可欠だが、審査のための十分な情報やノウハウがなく、みすみす優良顧客を逃してしまうケースも珍しくない。そうした課題を抱える企業のために、与信審査から請求、回収に至るまでの業務を丸ごと請け負うサービスが注目を集めている。その魅力に迫った。

面倒な請求業務は、社員の精神的負担が重い

 請求業務がいかに煩雑で面倒なのかを説明するのは、「釈迦に説法」というものだろう。特に中小企業の経営者の場合、すぐそばにいる経理担当者が、膨大な紙の請求書を発行し、封筒に入れ、郵送するという作業を日常的に目にしている。少人数の会社であれば、社長自らがその作業に加わっているケースも多い。

「業務のデジタル化がどんなに進んでも、いまだに請求業務は紙で行っている企業が大部分です。『大切なエビデンスは紙で残しておきたい』という意識を捨て去れないからでしょうね」と語るのは、日本CFO協会主任研究委員で公認会計士の中田清穂氏だ。

中田清穂(なかたせいほ)
有限会社ナレッジネットワーク代表取締役、公認会計士。

青山監査法人、PWコンサルタントを経て独立、1997年ディーバを設立。2005年同社退社後、現職。経理実務の課題解決活動をスタート。会計基準対応、経理業務改革、経理業務のデジタル化・自動化、電帳法・インボイス制度対応など、大手から中小企業まで、個別相談対応、セミナー講演実績および著書多数。キヤノン電子社外監査役。

「請求書をPDFファイルなどのデジタル文書で作成し、メールで送るようにすれば工数は大幅に減りますし、郵送代などのコストも削減できます。請求書発行のためにわざわざ会社に来なくても済むので、社員のリモートワークも進む。いいことだらけなのに、『紙でなければ』というこだわりが強過ぎるせいで、無駄や手間が解消されないのは本当に残念です」(中田氏)

 膨大な作業は、社員に肉体的な疲労や精神的な苦痛を強いる。「働きやすさ」や「働きがい」が求められる今の時代に、逆行しているともいえそうだ。

「精神的な苦痛という意味では、請求書の発行よりも、むしろ入金の消し込みや、未収金の催促の方が、はるかに大きいといえます」と中田氏。

「銀行の振込明細を見ても、振込人名義が請求先と一致しなかったり、金額が微妙に食い違ったりすることもあるので特定が難しい。それを一件一件確認しながら消し込んでいく作業は、かなり神経をすり減らします。しかし、それ以上につらいのは未収金の催促です。先方の未払いで電話をしているのに逆ギレされたり、怒鳴られたりすることもあり、人によっては苦痛だったり、そこまでいかなくても憂鬱だという話もよく聞きます」(中田氏)

 忙しい経理担当者や、優秀な営業が、催促作業の負担で本業に影響が出てしまうのは会社にとっても大きな痛手だ。業務改善は、営業や製造といった「お金を生む業務」ばかりにフォーカスされがちだが、請求業務の見直しもしっかりと問題視しなくてはならない。

「特に中小企業やスタートアップといった少人数の会社の場合、経理だけでなく、営業担当やその他のスタッフも総出で催促を行う会社が少なくありません。中には、大事な顧客の機嫌を損ねないために、社長自らが催促を行う会社もあります。会社全体としての余分な業務を減らし、社員の精神的負担をなくすためにも、請求業務の改善や合理化は積極的に推し進めるべきだと思います」(中田氏)