1100以上の大規模ECサイトを構築してきたSI社が挑んだ次のハードル
前述の受発注をEC化したいというニーズに応えるソリューションとして、SI社では「SI Web Shopping」を提供している。同社が96年に日本で初めて発売した自社開発のECサイト構築パッケージだ。
「SI Web Shoppingはパッケージソフトでありながら、カスタマイズ性や拡張性が高いことが特徴です。ERPやCRM(顧客管理)、WMS(在庫管理)など既存システムとの連携や、一般的にパッケージでは不向きな特定業務に特化したサイトでもカスタマイズ対応が可能。当社はこのパッケージを販売するだけでなく、構築のお手伝い、内製化の支援もさせていただいています」と尾崎氏は語る。
SI Web ShoppingはこれまでBtoC・BtoBを問わず1100サイト以上の事業者に導入されてきた。特に、BtoC市場においては売上金額で30億円から数百億円という大型のECサイトの構築では国内トップクラスの実績を持つ。
そんなSI Web Shoppingに課題が生まれた。DXの流れの中で増している、「小規模」かつ「迅速にECサイトを立ち上げたい」というニーズには対応しづらいことだ。単に、小規模ECサイトを手軽に構築できる低価格なサービスならば、世間に多数存在する。ただしそれらのサービスは、ERP、CRMなど、既存の業務システムとの連携が満足にできない。在庫、注文、顧客データなどのシステム間共有が不十分なままECサイト運営を進めれば、自社にとって使いにくいばかりでなく将来のスケール(規模の拡大・分散)も難しくなる。
そもそも国内のECサイトの事業規模は1億円から50億円レベルの年商のサイトがボリュームゾーンだ。さらに近年、企業がDXを加速させるとともにグローバル化を進める中、新規でかつ迅速にECサイトを立ち上げる必要があるにもかかわらず、そのソリューションが不足していることが日本のEC市場における課題だ。
「小規模のECサイトを迅速に構築したいというニーズに対して、SI Web Shoppingを進化させてアジャストさせるのか、それとも他社のサービスを探し連携するのがいいのか。当社の事業戦略上の課題として模索していました。そんなときにたまたま出合ったのがAdobe Commerceでした」(尾崎氏)
中小規模で迅速にサイトを構築したいという希望にマッチしたAdobe Commerce
Adobe Commerceは、アドビが2018年に買収したECプラットフォーム(旧製品名はMagento Commerce)である。その特徴は、単一のプラットフォームでBtoC、BtoB、あるいは両方のハイブリッドのECサイトを構築できる点だ。複数チャネル、複数ブランド、BOPIS(店舗受取)といった多様なビジネスモデルにも対応している。
また、ERPなどの既存システムともAPIを介して連携可能だ。さらにAdobe Analytics、Adobe TargetやAdobe Creative Cloudなど他のアドビ製品と連携させることで、ECサイトに関連する業務フロー全体を簡素化しつつ、アドビが買収後にはより高度な顧客体験の最適化を実現できるよう年々進化を続けている。
日本ではクリエーティブ(PhotoShopなど)やドキュメント関連(PDFのAcrobatなど)の分野で有名であるアドビだが、実はCMS(Contents Management System)分野のAdobe Experience Cloudでも、製造業、日本のグローバルブランド、自動車業界など各分野のトップ企業の多くに採用されている。
「アドビのEC分野の中核を担うAdobe Commerceは、海外ではあらゆる業種で利用され、デジタルコマースのトップブランドとしての地位を確立しています」と語るのは、アドビのパートナー営業部、執行役員本部長である長岡昌吾氏だ。
日本企業でもすでにカシオ計算機などが同製品を使ってECサイトを構築、特に海外展開をしている多くの企業に採用されている。
ベンチャー企業、ITメーカーを経て2014年にアドビに入社。Creative Cloudの戦略パートナーとのアライアンスを担当後に、マネージャとしてチームを率い、現在は執行役員に就任。アドビのグローバルで、Creative Cloud, Document Cloud, Experience Cloudの3つの事業領域の連携強化が行われる中、グローバル初の試みとして、3つの事業領域にて日本国内のパートナービジネスを統括。同時にDX第四営業本部も統括し、アドビのビジネスを包括的に推進
このグローバルで実力を認められているAdobe CommerceにSI社は目を付けた。SI社から問い合わせがあった時のことをアドビの長岡氏はこう振り返る。
「カスタマーセンター経由で問い合わせを受けたのですが、システムインテグレータさんといえば、われわれECの専門家なら誰もが知っているトップメーカー。同じメーカー企業が何の用件だろうかと、ちょっと警戒してしまいました(笑)。
しかし実際に尾崎さんの話を聞いて、革新的な事業への可能性が開けたのです」
実は、Adobe CommerceもSI Web Shoppingも、メーカー独自の開発フレームワークでなく汎用開発フレームワークを使って開発されており、またパッケージのプログラムソースを公開して、顧客やパートナーであるSIer(ITベンダー)がカスタマイズできるようにしているなど、同じような思想を持っていた。「同じメーカーでありながら、企業間のパートナーシップとしては、狙う顧客セグメントが異なっていたので、今後は手を取り合っていけると思いました」(長岡氏)。
そこからの展開は早かった。最初の面談後、尾崎氏はアドビとの協業の可否を経営会議に諮る。そこでゴーサインが出るや否や、すぐに協業に向けた取り組みがスタート。同時に、数社の顧客に対してフィールドトライアルの提案も行ったという。半年程度で提案実績とデリバリースキームを構築してしまったのだ。
「Adobe Commerceを詳しく知る中で一番驚いたのは、標準で利用できる機能が限りなく多いことです。それも顧客が管理画面から複数のパラメータを選んでいくだけで設定できてしまう。しかも拡張性が高い。つまり標準機能だけで最小限のスタートもできるし、自社の業務に合わせて入念にカスタマイズすることも可能。私が知る中では、国内で展開するECソリューション全体の中で最も機能充足度が高く、あらゆるビジネスモデルにフィットさせやすい製品だと思っています」(尾崎氏)