日本企業がアニマルスピリットを失ったことが、長く続く経済停滞の原因と指摘される。デジタル化やグローバル化によってますます不確実性が高まる中、適切にリスクテークし、成長につなげるためには何が必要なのか。
デロイト トーマツ グループのリスクアドバイザリービジネスを率いる岩村篤氏と、同グループのアナリティクスチームのリーダーである神津友武氏に、リスクマネジメントとアナリティクスを掛け合わせた経営の高度化について聞いた。
アナリティクスの現在地――後塵を拝する日本に勝機はあるか
――デジタル化によって幾何級数的にデータが増大する21世紀は「データの世紀」といわれます。先進的なアナリティクスによるデータ活用は現在どこまで進んでいるのでしょうか。
神津 業種によって成熟度は異なり、金融、インターネット企業などでは早くからデータ活用が進みました。最近は、言語処理領域の技術が発展したことにより、財務諸表の数値データだけでなく、営業担当者の報告書などに記載されたテキスト情報を分析して、与信判断や倒産予測に活用する事例もあります。
製造業でもデータ活用は進んでいます。米国の製薬企業がクラウド上で人工知能(AI)を使って創薬を行い、短期間で新型コロナウイルス感染症のワクチンを開発したのは有名な話です。化学メーカーにおいても、コンピューター上でデータ解析技術を用いて、新しい化合物を開発する動きが盛んです。
われわれも、内部監査業務において従来はコンサルタントが経験と知見を基にアドバイスしてきたのですが、それを一つのデジタルツールとして提供し、お客さまが不正などを発見したいときに、ご自身でデータをアップロードして、確認するといった活用事例もあり、すでに20社以上で導入されています。
日本企業全般についていえるのは、コスト削減や業務効率化の領域ではデータ活用が進んできているのですが、ビジネスモデルをドラスティックに変革するような領域では、まだまだこれからといった印象です。
岩村 企業風土やビジネスモデルによってもデータ活用の度合いに違いが見られます。また、それ以前の問題として、データが取れるか、データを持っているかといったことも大事で、データ基盤の整備もデータ活用に大きな影響を与えています。さらに、データ基盤が整備されている場合でも、そのデータが正しいのかどうかといった点も大切です。
その次のステップとして重要なのは、集めたデータを分析して、どう意思決定に生かしていくかです。かつての高度経済成長期であれば、キャッチアップ型の経営や経験と勘でやっていける部分もあったかと思いますが、これだけ複雑で世の中の変化が激しい時代においては、過去の経験に基づく環境認識ではなく、データによる客観的な情報に基づき、アジャイル(機敏)かつ論理的に物事を決めていかないといけません。
一方で、データ分析というのは過去の経験則やパターンから導き出したものです。経営におけるアナログで、アートともいえる部分も引き続き重要であり、データ基盤を整備して、論理的に意思決定するサイエンスとアートを両立させながら、高度に意思決定していくことが、ますます求められているといえます。