全社的な変革であるDX(デジタルトランスフォーメーション)において、高い壁として立ちはだかるのが部門間の連携不足であり、変化やチャレンジをためらう組織文化であるといわれる。
2019年から独自のDX戦略「CSDX VISION」を推進する金融サービス大手クレディセゾンは、デジタル人材の大規模な採用・育成やソフトウエア内製化などによって変革のスピードを加速させている。その強力なエンジンとなっているのが、部門を超えた連携基盤となっているビジネス用のメッセージプラットフォームのSlackだ。
同社はどのようにSlackを活用し、変革をスピードアップさせてきたのか。取締役兼専務執行役員CTO(最高技術責任者)兼CIO(最高情報責任者)の小野和俊氏とテクノロジーセンター課長の井上洋平氏に詳しく聞いた。
三つのステージを経て、Slackが全社に普及
クレディセゾンの小野和俊氏は、ソフトウエアエンジニアとして米国で活躍した後、自らソフトウエア会社を起業、その会社の株式を売却したのを機に譲渡先であるセゾン情報システムズのCTOに就任。2019年からはクレディセゾン取締役兼専務執行役員CTO兼CIOとして同社のDXを先導する立場にある。
小野氏は自らの会社を経営していた当時も、セゾン情報システムズに移ってからもビジネスコミュニケーションにSlackを使っていた。「Slackは部門の壁を感じさせず、情報交換が自然と活発になり、組織が活性化します。ですから、私にとってはSlackを使うのは当たり前のことでした」。小野氏はそう振り返る。
クレディセゾンでも、まだ英語版しかなかった15年から一部の部署でSlackを使い始めていたが、三つのステージを経て、活用が全社に広がっていった。
ステージ1は、小野氏がクレディセゾンに入社する以前の15〜19年まで。ここは、いわば揺らん期で、現テクノロジーセンター課長の井上洋平氏らが中心となり、マーケティング理論でいうところのイノベーター(革新者)やアーリーアダプター(初期採用層)の間に、Slackの利用を少しずつ広げていった。
「私も前職でSlackを使っていたので、導入による組織活性化効果があることは分かっていました。でも、Slackの利用を無理強いすると、かえってSlackの持つ良さを発揮できないので、既存の業務の中に取り入れる形で少しずつ普及させていきました」(井上氏)
ステージ2は小野氏が着任した19年で、DX推進組織としてテクノロジーセンターを立ち上げ、デジタル人材を集結。新規採用者を増やしていく中で、エンジニアたちにとってはなじみ深いSlackが、デフォルトのツールとしてテクノロジーセンターの社員たちに使われるようになり、関係する他部門の社員たちにも広がっていった。
そして第3ステージは、20年以降。コロナ禍でリモートワークが当たり前になると自分たちも使いたいという社内の要望が爆発的に増えた。現在、週間アクティブユーザー数は約3000に達しており、セキュリティー保護の観点から業務上インターネットに接続することができない部署を除いて、ほぼ全員が使っている。
では、クレディセゾン社内ではSlackがどのように活用され、どんな成果が上がっているのか。次ページから具体的に紹介しよう。