一人一人の「気付き」を組織の力として結集し、変革の推進力を高める

 Slackの大きな利点をあえて一つだけ挙げるなら、それは「一人一人の“気付き”を組織の力として昇華できること」と小野氏は言う。

「社員一人一人によって、蓄積してきた人間関係や経験、感じ方が異なり、その結果、それぞれの気付きも異なります。一人一人の気付きを漫画『ドラゴンボール』に出てくる元気玉のように組織の力としてチャンネル上に集めることができるのが、Slackの強みです」

 企業では、一つの部署に似たような考え方やバックグラウンドを持つ人材が集まりがちだ。しかし、多様な考え方や価値観、スキルなどを有機的に結合していくことが、企業変革には欠かせない。

「自分が直接担当する仕事やプロジェクトでなくても、『これでいいのかな』『こうした方がいいんじゃないのかな』という気付きがあったとき、それをすぐに言える環境があり、異なる者同士が近づき、融合していくことが、変革の推進力になります。その点で、Slackは変革のプラットフォームとして機能しています」(小野氏)

クレディセゾンでは、部門を越えた「気付き」の共有が組織変革を加速しているクレディセゾン
小野和俊取締役兼専務執行役員CTO兼CIO
大学卒業後、サン・マイクロシステムズに入社。米国本社においてJavaやXMLでの開発を経験し、2000年10月アプレッソを設立し、代表取締役に就任。13年、セゾン情報システムズによるアプレッソの株式取得に伴い、セゾン情報システムズに入社。15年取締役CTO、16年常務取締役CTO兼テクノベーションセンター長を務め、同社のデジタルトランスフォーメーションをけん引。19年3月より現職。著書に『その仕事、全部やめてみよう』(ダイヤモンド社)。

 例えば、クレディセゾンではさまざまな部署が幾つものウェブサイトを運営している。ある社員は自分の担当ではないウェブサイトのレスポンス(反応)が特定の時間帯に遅くなっていることに気付き、担当チームにSlackのチャンネルで知らせた。

 担当チームが確認したところ、その時間帯にデータのバッチ(一括)処理が集中していたことが要因で、サイトのレスポンスが遅くなっていたために、PV(ページビュー)や売り上げが落ちていたことが判明した。システムを見直し、レスポンス速度を上げることで、その後は機会損失を防ぐことができた。

 また、「セゾンのふるさと納税」のサイトを新たに立ち上げる際、対面の会議で「ふるさと納税の返礼品を自動でお薦めしてくれる『おまかせガチャ』ができたらいいね」というアイデアが出た。そこで、すぐにSlackのプロジェクトチャンネルを立ち上げ、ガチャに詳しいソーシャルゲーム作成の経験者など他部門の人材を招待、アドバイスをもらった。

クレディセゾンでは、部門を越えた「気付き」の共有が組織変革を加速している「セゾンのふるさと納税」サイトを立ち上げる際には、Slackのプロジェクトチャンネルを通じて、さまざまな部門からの多様なアイデアや「気付き」を集めた。

 あるいは、総合通販サイトの「ストーリー セゾン」でも、他部門のデザイナーなどにUI/UX(ユーザーインターフェース、ユーザー体験)について意見を募るなど、一人一人の気付きをSlackを使って集約し、組織の集合知に昇華している例は枚挙にいとまがない。

「他部門からの気付きで自分たちの事業が良くなった経験があると、次は自分たちも気付いたことは伝えようという文化が生まれます。『こんないいことがあった』という一つ一つの小さな成功体験が社内に広がることで、事業の改善や変革のスピードが加速するという好循環が生まれるのです」(小野氏)

 カスタマージャーニーの視点から見ると、一つのサービスや製品であっても、サービス・製品の企画・開発だけでなく、ウェブサイトのUI/UX、コールセンターの対応など多岐にわたる関係部門が緊密に連携し、全ての接点における顧客体験を高めていくことが求められる。「部門横断の仕事を迅速かつスムーズに進める上でも、Slackが役に立っています」(小野氏)。

 今では新サービスや新製品の開発に当たっては、ほぼ全てSlackで公開チャンネルを立てて、社内の気付きを広く集約しながら、スピーディーなブラッシュアップを行った上でリリースしているという。

 7月下旬以降にリリース予定のゴールドカード「SAISON GOLD Premium」を含め、Slackによる自由で横断的なコミュニケーションがフル活用されているのである。