メールや電話では実現できないスピードを実感
クレディセゾン社内におけるSlackのチャンネル数は、現在約2800に及ぶ。情報がオープンなパブリックチャンネルは自由に立てることができ、招待制で非公開のプライベートチャンネルは管理者の承認制だ。Slackは2500以上の外部アプリとの連携が可能で、自由度が高いことも特徴の一つだが、クレディセゾンでは現在、オンライン会議ツールのZoom、プログラムコードの管理ツールであるGitHub、サーバー監視のDatadog、Microsoft 365のSharePointなどとAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で連携している。社内のエンジニアが作ったカスタムアプリと連携させて、情報共有などに活用している例もある。
情報セキュリティーを確保した上で、社外の人とチャンネルを共有してつながることができる「Slackコネクト」も活用している。取引先約100社とSlackコネクトを通じて協業しており、「メールや電話では実現できないスピードを実感しています」と井上氏は語る。
人事部門では内定者をゲストアカウントでSlack上の専用チャンネルに招待し、入社前のコミュニケーションやフォローアップに活用。内定者同士もSlackを通じてつながるなど、部署ごとに独自の活用法が次々と生まれている。
小野氏は、SlackのUI/UXデザインは不慣れなユーザーでも疎外されないよう配慮されていることが、活発に利用されている要因の一つだと見ている。
「UIデザインの分野でいうアフォーダンスがよく考えられていて、Slackは直感的に使い方を理解できます。ユーザーを気軽に発言させたり、やるべきことをさりげなくアナウンスしたりする、細かい配慮が行き届いた設計になっていて、発言のハードルを下げている。心理的安全性が高いデザインといえます」(小野氏)
Slackでは、既読が付かない。未読だったり、既読スルーされたりすると、発言のモチベーションが下がるものだが、既読の機能がなければ、気にせずに済む。「本当に発言が苦手な人はリアク字(リアクション用の絵文字)で反応するだけでも賛成、反対など何かしらの意思表示ができて、チャンネルの輪に入れることもSlackの利点だと思います」(井上氏)。
SlackによってDXが加速した効果を定量的に示すことは難しいが、小野氏は「Slackの本来の効果は定性的なものにある」と断った上で、コミュニケーションに要する時間が1日で1人当たり2分程度効率化されれば、十分にペイするという独自の試算を紹介してくれた。社内アンケートでは「Slackなしでは10分以上余計に時間がかかる」と回答した人が84%もおり、すでに十分ペイしているといえそうだ。
金融DXにとって大きな武器になるプラットフォーム
Slackでは21年から、Slackを導入して革新的な活動を行っている企業を表彰する「Slack Spotlight Awards」をグローバルでスタートさせた。第2回となる22年の同アワードでは、長引くコロナ禍の状況を踏まえ日々の仕事の中でDXを推進し、未来の働き方の変革を実践した企業を表彰した。日本から国別優秀Digital HQ賞を受賞したのが、クレディセゾンだ。大手の金融サービス企業としては、グローバルで見ても初の受賞である。
「『しっかり』『かっちり』を旨とする金融機関であっても、組織や個人がどんどん活性化するSlackを利活用できている面白い事例として評価していただけたのかなと、うれしく誇りに思います」(小野氏)
内部統制や個人情報の厳しい管理を求められる金融サービス業と、Slackの自由でフラットなコミュニケーションスタイルは親和性があるのか。「もちろん、個人情報保護や法令順守については、社員教育をしっかり行い、リテラシーを高く保ち続ける必要があります。その基礎の上で、金融業に分類される企業においても、Slackは個人の”気付き”や業務に必要な情報を流通させる極めて強力なツールとして機能しています」と小野氏は語る。
小野氏によれば、「Software is eating the world」(ソフトウェアが世界を侵食していく)といわれる昨今、金融業界もデジタルディスラプション(創造的破壊)と無縁ではいられない。そうした大きな変化の真っただ中にあって、気付くべきことに気付いて、先陣を切って変わっていかなければ、大手企業といえども存続が危うくなる。
「守るべきところは守りつつ、それ以外はできるだけオープンにして気付きを集め、アジャイル(機敏)に変革していく。部門横断の気付きのコミュニケーションを加速させるSlackは、金融DXにとって大きな武器になるプラットフォームだと思います」(小野氏)
クレディセゾンのような歴史と規模を持つ金融サービス企業が、Slack活用で顕著な成果を上げていることは、金融DXに取り組む他の企業にとっても大いに勇気づけられる先進例となるのではないだろうか。