「クリエイティブデジタルリテラシー」を持つ人材を育成するには
「アドビは、すでに日本で30年にわたり事業を展開していますが、日本のお客さまと一緒に成長してきた企業と言っても過言ではありません。当社のアプリケーションを使っていただいているユーザーはとても多く、クリエイティブなデジタル人材が少ないとは思っていません。
あえて厳しいことを言えば、これまで企業の中で、デザイナーやクリエイターという職種のポジションがあまり評価されてこなかった。優れた技能を持つ人材は潜在的にたくさんいるので、企業がそういう方々をきちんと掘り起こして主要なポジションに据えることができれば、状況は変わってくると考えています」(神谷社長)
高校と共同で「データサイエンス」のカリキュラムを開発
現在、アドビでは「クリエイティブデジタルリテラシー」を持つ人材の育成に本格的に取り組むため、社長直下の専門組織を設置、デジタル人材の育成を加速している。第一歩となるのが若い世代の育成を柱とした、教育現場での取り組みだ。
その最新の事例の一つが、関西学院千里国際高等部と「データサイエンス」のカリキュラムを共同開発し、授業を実施するというプロジェクトだ。
具体的には、生徒たちはアドビのウェブ分析ツール「Adobe Analytics」を活用して、同校の入学検討者向けウェブサイトの来訪者データを分析し、課題を見つけ、解決のためのアイデアを立案する。さらに、プロトタイピングツール「Adobe XD」でプロトタイプを作成、プレゼンテーションを行う。分析からプレゼンテーションまでの一連のプロセスを学ぶことで、情報社会を構成するデータに着目し、主体的に関わることのできる人材を育成するのが目的だ。
いわば、データサイエンススキルと、デジタルクリエイティブスキルの両方を活用して、創造的な問題解決に取り組むという実践的な授業であり、同校では全学年を対象に、22年11月から23年3月にかけて実施していく予定だという。
「関西学院千里国際高等部はもともと教育の現場での創造性の育成に力を入れている学校で、当社の『Adobe Creative Cloud』の導入も早くから進めていただいていました。この春からは中学・高校の全生徒がPC教室でCreative Cloudを使える環境が整ったほか、生徒たち自身のデバイスでも高校情報科選択の生徒はCreative Cloudが、その他の全生徒はAdobe Expressが時間や場所を問わずに活用できるようになりました。
今教育現場では、プログラミングや情報の授業の強化が行われていますが、こうした社会で使われている分析ツールなどを実際に使って課題を解決し、チームで協力しながらアイデアを実現していく授業は、高校ではまだほとんどありません。若い人たちには、早い段階からクリエイティブなツールを使ったアウトプットに興味を持ってもらい、将来の仕事に結び付けてもらいたい。今後はこのプロジェクトを、全国に展開していきたいと考えています」(神谷社長)
アドビ日本法人社長
2014年10月にアドビに入社し、クラウド、サブスクリプションビジネスへのDXを成功裏に導いてきた。21年4月より現職に就任し、Creative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudを含む国内事業を統括。
また東京都教育委員会では、学校教育のデジタル化を支援するため、直感的な操作で画像やウェブページを作れる「Adobe Express」を、2022年4月から全都立学校(高校・中等教育学校・附属小学校・附属中学校・特別支援学校)に導入している。
さらに22年5月から、学習支援アプリとして都立高校のモデル校20校に、新たに「Adobe Creative Cloud」が採用された。
神谷社長は、「こうしたツールが導入されることで、生徒たちは日常的に使っているタブレットなどで、創造性を豊かに発揮できるようになると確信しています」と期待を語る。
アドビはもともと、魅力的なデジタルコンテンツを作成するアプリケーションと、データ分析を行って適切な相手に届けるソリューションの両方を持っている。その二つを兼ね備えていることが、デジタル人材育成の場面でも大きな強みとなっているのだ。