軽く、強く、再生可能──。木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)は、脱炭素社会の切り札として期待されるエコ素材だ。瞬間接着剤「アロンアルフア」の化学メーカーとして知られる東亞合成が、新たな生産方法を開発し、実用化の加速に弾みをつけた。

高濃度でも流動性が保たれているのが使いやすさのポイント。攪拌するとCNFに解繊され、水分散液は透明になる。乾燥粉体タイプも発売予定。写真右が「T-OP100(10%水分散液)」。同左が「T-OPD100(粉末・開発品)」

 セルロースといえば、木材の主成分だ。物質としてはありふれているが、鉄と比べると、重量はわずか5分の1、強度はなんと5倍という優れた特性を持つ。

 このセルロースを、繊維としての最小単位まで分解したのが「セルロースナノファイバー(CNF)」だ。プラスチックやゴムに配合すれば、強度を維持しながら、薄肉化・軽量化が可能になり、産業部門から排出されるCO2を大きく削減できる。人体に無害で、100%木材由来なので枯渇の心配もない。

 良いことずくめの「夢のエコ素材」とあって、これまで盛んに研究されてきたが、まだ実用化された例は少ない。

 最大のボトルネックはコストだ。パルプからCNFを取り出すには、束状にがっちり結合したセルロースの繊維をナノレベルに解きほぐす「解繊(かいせん)」という工程が不可欠だ。物理的にほぐすと多大なエネルギーがかかり、化学的にほぐすと特殊な薬剤や設備が要る。できたCNFは大量の水に分散した分散液状態が最も安定するので、保管や輸送のコストもかさむ──。この「コストの壁」を打ち破ったのが、東亞合成のアロンフィブロなのだ。