シンプルな生産方法を確立
価格を従来の5分の1に

 特筆すべきは、生産方法が極めてシンプルなことだ。

 繊維をほぐすための酸化処理に使うのは、殺菌剤や漂白剤として非常にポピュラーな「次亜塩素酸ナトリウム」だけ。触媒も使わなければ、加温も加圧もしない。酸化を終えたセルロースはミキサーで攪拌すれば解繊してCNFが生成できる。

脱炭素社会実現の切り札、新世代のセルロースナノファイバーが誕生

 このシンプルな方法は、いわば「逆転の発想」から生まれたものだ。同社R&D総合センター応用研究所の松木詩路士(しろし)主査はこう話す。

「研究がスタートしたのは2017年ですが、当初CNF開発は全く頭になく、化学メーカーとして自社で大量に扱っている次亜塩素酸ナトリウムの用途開発が目的でした」

 社内でさまざまな角度から用途を探るうち「セルロースの酸化剤として使えるのでは?」というアイデアにつながった。

「まずビーカーで実験したところ、いきなり激しい反応が起きて驚きました。失敗かと思ったのですが、電子顕微鏡で繊維状のものが確認できたので可能性を感じました。そこからは長い試行錯誤の連続でした」

 松木主査らのチームは、条件を変えながら実験を繰り返し、同17年にCNFの生成を確認。その後、CNF研究で最先端をゆく東京大学との共同研究でCNFの特性や形態を明らかにした。

 工程がシンプル故に低コストで、ナノ化に特殊な設備を要しないため、ユーザー側で解繊してCNFとすることができる。このためCNFの前段階の「酸化セルロース」で出荷できる。これが物流コストの大幅削減にもつながり、既存のCNFの5分の1以下の価格での量産が可能になった。

「コストが大幅に下がったことで、自動車や産業資材など、活用領域が大きく広がっていくと思います」と、同研究所の桐戸洋一所長は期待を寄せる。