デジタル庁が整備し、政府や地方自治体が共同利用する「ガバメントクラウド」には、「Amazon Web Services(AWS)」と「Google Cloud Platform(GCP)」がまずは採用された。どちらも米国系のパブリッククラウドだったため、「外資対国産」「パブリック対プライベート」という図式で捉えた議論が起こりがちだ。しかし、それはクラウドサービス活用に当たっての表層的な捉え方でしかない。デジタル庁の梅谷晃宏ガバメントクラウド統括と国産パブリッククラウドを提供するさくらインターネットの田中邦裕代表取締役社長がパブリッククラウド活用の本質を語り合う。
パブリッククラウドを
巡る議論は本質を捉えていない
梅谷晃宏ガバメントクラウド統括
金融や医療・医薬、政府関連などのコンプライアンスソリューションの開発、クラウドサービスのセキュリティーやコンプライアンス順守の向上などに携わり、スタートアップのCISO、内閣官房IT総合戦略室政府CIO補佐官を経て現職。
田中 パブリッククラウドを国が使う動きが出てきたことは、非常に良い流れだなと思っています。コストやテクノロジー、安全性的にもパブリッククラウドが良い。ところが、いつの間にか海外のクラウドは危ないのではないか。パブリックは良くないのではないかという話を耳にするようになりました。
梅谷 テクノロジーは「課題を解決するためにベストなツールは何か」という視点で選ぶべきです。政府であれば国民の利便性を高めるサービス提供という目的に最も合うものを都度選択します。デジタル庁の施策でも外資推し、国産推しという考え方はありません。コスト効率、アジリティー(機敏性)、アベイラビリティー(可用性)、セキュリティーなどといった客観的な指標を設定し、要件を満たすテクノロジーでベストなものを継続的に選んでいくというシンプルな考え方です。
田中 ガバメントクラウドについては、多くのユーザーに鍛えられたパブリッククラウドを使うべきと考えています。ソフトウエアの魅力は、同じ仕組みを多くのユーザーが共用することで、開発コストが多くのユーザーに広く薄く乗り、コスト負担が軽減されることです。また、開発する側はリソースを集中できます。当社は、創業以来26年の間、そこを目指してやってきました。
梅谷 日本人の心情としては、国産クラウドを応援したいです。しかし先ほど提示したKPIの視点などを考慮すると、この10年でかなり外資勢とは差がついてしまった実情があります。さくらさんのようなクラウドベンダーが、顧客に真の利便性を提供するクラウドへの投資とサービスの拡充をしていくことは、非常に大きな意味があると思います。デジタル庁は喫緊の課題解決が使命ですが、中長期の産業育成を主導する関連省庁とも連携しています。
パブリッククラウド
サーバーやソフトウエア、回線などのリソースを企業や個人といったユーザーが共有して利用するオープンな環境。対するプライベートクラウドは企業が自社のために構築した環境を指す。