黒田教授のシステムデザイン研究センター(d.lab)では、「半導体の開発にかかる費用と時間を10分の1にする挑戦」を始めた。その柱となるのが、「アジャイル開発プラットフォーム」だ。アジャイル開発では、設計の大半をコンピューターに任せ、目標性能の80%に到達したら、そこから先の胸突き八丁となる20%を追わずに世に送り出す。そしてユーザーから指摘された欠点をつぶしながら100%に近づけていく。バージョンアップを繰り返すソフトウエア開発と同じこの手法は、「Agile-X~革新的半導体技術の民主化拠点」として文部科学省の委託事業に採択された。

「半導体技術の民主化(democratize access to silicon technology)とは、技術革新を加速させるのは集団脳であるという理解に基づきます。ハードウエア技術者の数はソフトウエア開発者の数より桁違いに少ないが、技術者の負担にならないアジャイル開発であれば、集団脳の獲得が期待できます」

高度な技術を用いた広島産半導体が、Society 5.0を実現マイクロン広島工場で始まる「1β」世代のDRAM生産は、国内の半導体サプライチェーン維持に大きな役割を果たす

 広島では別の挑戦が始まっている。マイクロンは、6月初旬に国内有数の半導体生産拠点である広島で世界最先端半導体を量産する計画があると述べている。その「1β(ベータ)」ノードDRAMは、現在生産中の「1α(アルファ)」ノードDRAMの後継に当たる最新のプロセスノード。「この半導体は最新世代のDRAM(データの一時保存に使う半導体)で、それが国内で量産されることは、大変大きな一歩だと思います」と黒田教授。