広島生まれの最先端DRAMと
半導体人材の育成
広島工場と同じ東広島市にキャンパスを構える広島大学の寺本章伸教授は、「半導体製造工場の建設は、その地域に新たな雇用を生み、相当なインパクトをもたらします。そして何よりも、日本の半導体サプライチェーンを維持し、半導体技術を絶やさないという非常に重要な役割を果たします」と、マイクロンの投資を歓迎しつつ語る。
寺本章伸教授 1990年東北大学工学部電子工学科卒業。工学博士。同大学院を経て92年三菱電機LSI研究所技術者。東北大学未来科学技術共同研究センター教授。2019年から現職。
世界的な半導体不足は日本企業を直撃しているが、「だからこそ、半導体のサプライチェーンを持っておくことが大事だし、経済安全保障の観点でも有効なのです」。
では、「1β」のどこがすごいのか。寺本教授はまず、マイクロンの製造技術力に着目した。「DRAMにはスイッチの役割を果たすトランジスタと蓄電するキャパシタが必要ですが、これを微細化するために芸術的とも言いたいほどの非常に高度な技術を投入しています。しかも、(回路パターンを基板に焼き付ける露光装置に)EUVリソグラフィー技術という高価で消費電力の大きい装置を使わず、既存のプロセス技術を総結集して高い歩留まりを保ちつつ、量産にこぎ着けたことに驚きます」。
そして、「1β」の量産により、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させた人間中心の社会を目指すSociety 5.0の実現が近づいたと話す。
「Society 5.0では両空間の間で生じる時間の遅れが致命傷となり得ます。例えば自動運転では回避行動が遅れ事故の確率が高くなる。DRAMはサーバー内のCPU(中央演算処理装置)の近くにあってデータを高速に処理するメモリーなので、『1β』の処理速度の速さが生きるのです」
広島大学はマイクロンとの縁が深く、ナノデバイス研究所を中心に、社員と学生が知の交流を続けている。次世代の半導体人材育成に役立つことを願って、大学ではマイクロン技術者の講師が講座を持ったり実習に参加したりする。マイクロンは学生を工場見学に招き、最先端技術に触れさせる。寺本教授はこうした交流の輪を広げ、他の大学、企業や研究機関、自治体などとも連携して「広島に産業クラスターをつくりたい」と夢を語る。
マイクロンは米国アイダホ州ボイシに本社を持つグローバル企業であり、「理念が日本と同じ国の資本であればよい」と黒田教授と寺本教授は口をそろえる。広島は世界の半導体生産をリードする。