異文化圏の人たちと一緒に仕事をするのを大変だと思うのは、人間の性だといえます。異文化に触れる程度であれば最初は面白いですし、新たな発見もありわくわくします。しかし、異文化の人たちに囲まれて仕事をすることが日常になると、居心地が悪くなったり、時には脅威を感じたりするものです。

 そして、自分と同じ文化圏の人たちと一緒にいたいと思うようになります。人はやはりコンフォートゾーンにいたいのです。私はそれを世界中で見てきました。

 ただ、パンデミックの影響に関していうと、世界の分断を深めた部分がある一方で、グローバル化をさらに推し進めた面もあります。私と鴨居さんがミネソタと東京にいながら、こうしてオンラインで対談しているのがそのいい例です。世界中のオフィスや自宅でこうしたオンラインミーティングが日常的に開かれるようになり、バーチャルな世界で他国の人と一緒に仕事をする機会がいっきに増えました。

 ですから、これまで以上に異文化理解や異文化マネジメントの必要性が高まっていると言えます。

 私が日本で最も好きなのは豊かな文化があり、その文化の中に歴史を感じられるところです。日本の文化には純粋さと一貫性があります。

 しかし、これからはデジタルを使って異文化の人たちと仕事をする機会がますます増えます。つまりそれは、日本人も居心地のいい場所から外に出て、より多くの仕事をしなければならないということです。

鴨居 おっしゃる通りです。私たちの会社にとっても、COVID-19の大流行はコミュニケーションのスタイルやビジネスモデル、さらにはクライアント支援のあり方、もっというと提供価値そのものを見直す大きな機会になりました。

誤りを謙虚に認め、修正するその組織文化をつくる

メイヤー 日本人がグローバルな環境で仕事を進めるうえで、最も大きなハードルになりそうなのが、多文化環境におけるリーダーシップです。

 リーダーシップスタイルの文化的差異に大きく影響するのは、カルチャーマップの8つの指標のうち「統率」と「意思決定」です(図表2「リーダーシップ文化の分布」参照)。

 統率とは、ヒエラルキー(組織階層秩序)を重視するか、平等主義かの違いです。意思決定のスタイルは、トップダウン型と合議型に大別できます。

 日本はヒエラルキー重視と合議型の傾向が最も強い文化であり、その対極が米国です。米国は上司と部下が互いにファーストネームで呼び合い、会議の場で部下に言いたいことを言わせますが、意思決定するのは常に上司であり、典型的なトップダウン型です。

 インドネシアや中国、インドなどは日本と同じようにヒエラルキーを重視しますが、意思決定はトップダウンです。こうした国々において合議制で意思決定しようとすると、リーダーシップが欠如していると見なされます。

 また、スウェーデンやノルウェーは、日本と似た合議型の文化で、意思決定に多くの人が関わるので時間がかかりますが、いったん決めると実行のスピードは迅速です。日本との違いは、上司と部下が対等に議論することです。

 こうして見ていくと、日本のリーダーシップスタイルは、非常に独自性が高いことがわかります。「稟議」と「根回し」に象徴される日本の意思決定プロセスは、物事を確実に遂行するうえでとても強みになりますが、いまや世界の動きは非常に速く、時間のかかる意思決定プロセスは弱みになる場面が増えています。

 特に日本の近隣市場であるアジアを含む新興国は、ヒエラルキー重視でトップダウン型の国が多く、リーダーとは意思決定する人であり、単なるまとめ役ではありません。こうした国々においては、部下への期待を明確に示し、具体的な指示を出す必要があります。

 他国の人たちは、日本がヒエラルキー重視であることは理解できますが、意思決定のスタイルは理解しづらいと思います。日本のリーダーはその点をよく知っておくべきでしょうね。

鴨居 私も常々、日本のリーダーシップスタイルを変革する必要があると訴えてきました。それは、過去の延長線上に未来を見出すことができない時代になっているからです。リーダーの最大の仕事は、向かうべき未来の方向性について意思決定することです。そこはトップダウンで行い、みずから責任を負うのがリーダーの役割です。

 一方で、決めたことを実行するのは部下たちですから、実行の部分についてはどんどんエンパワーメント(権限委譲)していくことが重要です。そうしなければ、実行のスピードが上がりません。

 このようにトップダウンとエンパワーメントを組み合わせたリーダーシップスタイルは、多文化環境でも十分に機能すると私は考えます。

 そして、同時に重要なことは、リーダーは誤りがあればそれを謙虚に認め、修正することです。多様な意見を受け入れ、お互いを尊重するマインドセットや組織文化を醸成していくことが、多様化した組織をマネジメントするうえで成功のカギになると思います。

メイヤー そうですね。これからのグローバルリーダーは、それぞれの文化に根差した多様な人たちを動機付けることに長けていなければならず、その点からも、お互いを尊重する組織文化はとても重要だと思います。

 私はリーダーシップスタイルを異文化に適応させることの重要性について述べましたが、同じくらい重要なのは自分らしさを見失わず、自分本来のリーダーシップスタイルを持つことです。

 自分自身でこれが正統だと信じられるリーダーシップスタイルを持ち、そのうえで異文化に対して謙虚になって、そのスタイルを適応させていくこと。それがグローバルリーダーの要件だといえます。

鴨居 私は、組織の中で揺るぎない共通の価値観を持つことの重要性も感じています。それは、パーパスと言い換えてもいいのですが、未来が予測できない環境においては、共通の価値観に基づいて未来を創り出していくことが、リーダーの仕事だと考えます。

 本日の対談はとても知的刺激に満ちたものでした。ぜひまたこのような機会をいただければと思います。

メイヤー ええ。ぜひまた、鴨居さんの異文化体験を聞かせてください。

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ポストグローバル資本主義時代に問われる多様性のマネジメントと異文化圏におけるリーダーシップ

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