その会社の米国人の会長にインタビューしたところ、「日本のチームは、会社に貢献しようという意欲が感じられない」と嘆いていました。会議に呼んでも発言が極めて少なく、それを彼は、会社への貢献意欲が低いからだと考えたのです。

 そこで私は、東京オフィスの幹部にもインタビューしました。彼は、まったく異なる見解を持っていました。「米国側は私たちを会議には招待するが、本気で私たちを巻き込もうとはしていない。なぜなら、前もって会議のアジェンダを送ってくれない。だから、私たちは発言のための準備ができない」というのです。

 この見解の相違は、人の発言を静かに聞き、勝手に発言しないことを謙虚さと考える文化と、無関心ととらえる文化の違いから生じたものです。

 もう一つ、リスク志向の違いも関係しています。米国は積極的にリスクテイクする傾向が強い文化です。ですから、何の準備もせず会議に参加しても、思い付いたことをどんどん発言します。議論は活発になり、いろいろなアイデアが出ますが、理論や数字の裏付けが乏しく、確実性の低い発言も多くなりがちです。

 逆に日本人はリスク回避の傾向が強いので、しっかりと準備したうえで議論に参加しようと考えます。準備ができていない場合は、不確かな発言は避けようとします。米国人からするとそうした姿勢は、議論をリードしようとしていない、会社に積極的に貢献しようとしていないと思えてしまうのです。

 そうした文化の違いをお互いに少し意識するだけで、会議の成果は大きく変わってくるはずです。

パンデミックが異文化理解の重要性を高めた

鴨居 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックが起こる前から、世界は大きな変曲点に差しかかっていました。

 米国や中国などの大国は自国優先主義に走り、世界の分断を広げました。パンデミックによって、人や物の移動が制限されたことで、その分断はさらに深まりました。

 パンデミックのさなかにオンラインで開催された2021年の世界経済フォーラム年次総会では、「グレート・リセット」がテーマになりました。端的に言えば、グローバル資本主義に代わる新たな社会・経済システムの構築を目指すべきだというものです。

 異文化間ビジネスのありようは、今後どう変わっていくとお考えですか。

ポストグローバル資本主義時代に問われる多様性のマネジメントと異文化圏におけるリーダーシップ

メイヤー おっしゃる通り、パンデミックの数年前からグローバル資本主義の揺り戻しが起こり、自国優先主義やローカル志向が高まっていました。