激しい社会と経済の変化の中で、日系企業が新たな活路を見出すためには、混迷の時代を切り拓くスキルを持った多様な人材と、彼らを育成し活躍の場を用意できる柔軟な組織が不可欠だ。その実現のヒントはどこにあるのか。東京大学で初の女性理事として大学運営に携わり、国内企業の社外取締役にも名を連ねる成蹊学園の学園長、江川雅子氏と、アビームコンサルティングでCWO(Chief Workstyle Innovation Officer)を務める岩井かおり氏が、「人的資本の最大化」をテーマに話を交わした。
ダイバーシティが組織に成長と変革をもたらす
岩井 今回のお話のテーマは「人的資本の最大化」ですが、ここに注目が集まる背景には何があるとお考えでしょうか。
江川 技術革新が進んで技術で代替できない仕事に関心が集まり、人的資産を含む無形資産の重要性が高まったのが背景だと思います。2021年に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」の中に、「中核人材の登用等における多様性の確保」という言葉が盛り込まれたのもポイントです。それ以前は、多様性といっても、主に取締役会における社外役員の多様性、たとえば女性や外国人を登用するといった話が中心でした。今後は管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)にも目を向けて、ジェンダーや国籍だけではなく、年齢や経験なども含め、より多様な人材を参画させるべきという考え方にシフトしています。さらには、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況とあわせて開示すべきというところまで踏み込んでいます。
日本の多くの企業や官公庁、団体は、新卒として就職した後、ずっと一つの組織に勤める雇用制度を踏襲してきた結果、組織を構成する人材の多様性が乏しくなってしまいました。ジェンダーを例に取っても社員の比率は男性に大きく偏り、役員ではさらに顕著です。日本は、ジェンダーのダイバーシティで遅れが目立つと以前から指摘されてきましたが、統計からもそれは明らかです。世界経済フォーラムが発表している「ジェンダー・ギャップ・インデックス」では、2006年は80位だった日本の順位が、2022年は116位です。これは政治や経済の分野で女性の参画が遅れているのが大きな要因です。
また、OECDのデータにある女性役員比率は、米国やドイツ、英国、フランスといった国が軒並み30〜45%前後なのに対し、日本は社外役員を入れても12.6%にすぎません。いまやジェンダーギャップ改善の取り組みは、機関投資家も含めたステークホルダーが注目している要素であり、日本は企業も立法・行政機関も、もっと多様性を高めなければいけません。
岩井 企業活動にも教育にも関わるお立場から、ジェンダーにおけるダイバーシティを促進することでもたらされる、具体的なメリットは何だとお考えですか。