これはプロジェクトへの配属権限を持った人がスポンサーとしてその社員に寄り添い、チャレンジできる場を設けたうえで、本人もその中で成功した体験を積み重ねながらステップアップしていくというものです。これとは別に社外メンター制度というものもあり、こちらは外部の企業の役員の方などにお話を伺い、自分らしいリーダーシップについてアドバイスを得ることができます。

ダイバーシティの真の目的は組織のパフォーマンス向上やイノベーション

従業員は「管理の対象」から「成長を支援する対象」へ

岩井 今回のテーマである「人的資本の最大化」を考える時、ここまでお話ししてきたダイバーシティはベースとしてありながら、次世代の多様性にあふれたグローバルリーダーに求められる資質や、組織のガバナンスのあり方についてはどのようにとらえていったらよいのでしょうか。重要なポイントをご紹介いただけますか。

江川 多様性を受け入れて事業を成長へと導くことはとても大切ですが、同様に必要だと考えているのは、従業員をエンパワーメントすることです。これまで従業員というのは「管理する」対象でした。しかしこれからは、裁量を与えて成長を支援するのが、上司やリーダーの役割になってくるでしょう。その際に重要なのが「心理的安全性」です。すなわち社員みんなが安心して活きいきと働ける企業文化を醸成していくこと。これも、経営陣や現場のリーダーには必須の課題です。

岩井 たとえば働き方改革やダイバーシティ促進などでは、取り組み直後はコストがかかる、効率が落ちるといった局面があります。このため現場からは、「本当にいま注力すべきことなのか」「まずは今期の売上げ達成が優先では」という声もしばしば聞かれます。この時、経営者は、もう少し中長期的視点で企業価値向上に取り組んでいることを、繰り返しメッセージアウトしていくことが重要では、と感じています。

 当社では、「デジタルESG」という活動を行っています。これは、たとえばダイバーシティ促進と企業価値の向上にはどのような有意の相関性があり、どういった取り組みで企業価値が向上するのかを可視化して分析し、次のアクションにつなげていくというものです。そうしたプロセスを通じて、施策の目的や意義を明確にストーリー化して、内外のステークホルダーに伝えていこうとしています。

 ところで、こうした活動の先頭に立つ次世代リーダーを発掘して引き上げ、経営を次世代につないでいくにはどうしたらよいでしょうか。

江川 いまさかんに人材の重要性、タレントマネジメントが論じられていますが、日本の会社の人の育て方は、海外に比べると年功序列にとらわれたりして、若い人に早い段階で修羅場体験をさせるのが遅れがちです。これからはポテンシャルの高い人材をできるだけ早く見極め、これはという人材には計画的に修羅場体験をさせることが大切です。

 また、近年はDXが大きなテーマになっていますが、日系企業はまだ年功序列が一般的なので、DX推進部長も50〜60代という会社が少なくありません。でも、まさにデジタルのように若い人のほうが得意な分野は、どんどん若い人に任せていくのがよいのではないかと思います。

若さは「多様性」 新しい感性を活かすべき

岩井 「管理」から成長の支援へと、会社と従業員の関係性が大きく変化していく中で、若い人たちの可能性を十分に引き出し、リーダーシップも含めた次世代人材を育成・成長させていくうえで何が必要でしょうか。教育者の立場から、読者である企業経営者にメッセージをお願いします。

江川 経営者には、若い人が力を発揮できるように思い切って権限委譲を進めてほしいです。グローバル化をあたかも脅威のようにとらえている人もいますが、実はさまざまな機会が増えるので、とりわけ若い人たちの活躍の場が大きく広がる格好のチャンスです。私たち教育者も、そういったメッセージを学生や企業に伝え、可能性を広げていくサポートをしていきたいと考えています。

 若いというのは「未熟」と同義に思われがちですが、年齢も多様性の一つであって、企業は意思決定の中に、そういう多様性を取り入れていく姿勢が大事です。海外では40代の社長や首相も多いので、若い世代も「自分は経験がないから」と萎縮せずに、いわゆるT字型のスキルを身につけて努力していけば、活躍のチャンスは広がると思います。

 若い世代は自分のキャリアを築くために転職も厭いませんし、会社のパーパスや社会課題への向き合い方を重視します。彼らを惹きつけるには、経営者もパーパスを掲げて求心力を高め、これまでの支配型リーダーシップではなく、サーバントリーダーシップで背中を押す必要があります。指導者として彼らを支え、チャレンジしやすい環境を整えることに注力したらよいと思います。若くても権限委譲を進める。失敗を許容する文化をつくってチャレンジを促す。それによって人材が育っていくと思います。

岩井 中でも、Z世代と言われる人たちは、社会課題に対する感度がとても高いと感じています。またコロナ禍の影響もあってか、生命や環境など、「生きる意味」についてとても真剣に考えています。いま、世界では「ウェルビーイング経営」といったキーワードが注目されており、そうした若い人たちの感覚は、企業が取り組むべき社会課題解決に、大いに貢献してくれると感じます。

江川 スキルを身につけるのはとても大切ですが、一方で社会に出て私が感じるのは、豊かな人間性や柔軟性、周りの人とのチームワークが何より重要だということです。これから社会に出る人には、そこをしっかり磨いてほしいと思っています。私が学園長を務めている成蹊学園の建学の精神は、「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」の3つで、人格を磨くということを非常に大切にしています。特にリーダーになればなるほど、その人の価値観や倫理観が問われるようになっていきます。ビジネススキルの研鑽とあわせて、そのことを常に考えながら成長してほしいと感じます。

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