企業にはいま、サステナビリティ経営やサーキュラーエコノミー(循環型経済)の取り組みがグローバルで求められている。特に製造業において、その意義は年を追うごとに大きくなっている。その中で、すでに1988年には製造工程におけるフロン全廃を決定し、以来30年あまりにわたって環境対応に積極的に取り組んできたのがエプソンだ。その背景となっている企業文化について、同社のサステナビリティ推進の責任者を務める瀬木達明氏と、その取り組みをデジタルの側面から支援してきたアビームコンサルティングの今野愛美氏が話を交わした。

創業以来80年貫いてきた環境重視の姿勢

今野 エプソンは、日本の製造業の中でもとりわけ早く、約30年も前から、環境対応や現在企業にとって重要なキーワードの一つになっているESG経営に取り組んできました。その背景やこれまでの歩みなどについて、あらためてお聞かせいただけますか。

瀬木 当社は、今年(2022年)5月に創業80周年を迎えました。1942年の創業当初は、「東洋のスイス」と呼ばれ豊かな自然に囲まれた諏訪湖(長野県)の近くで時計部品をつくっていました。時計製造にはいろいろな化学物質を使いますが、絶対に諏訪湖を汚してはならないと創業者は考えていました。その思いが、環境を大切にするという当社の文化の底流にあります。

 私たちの時代になって大きな転換点となったのは、1988年に始まったフロンレス活動です。世界に先駆けて、精密機械製造の工程で欠かせないフロンをオゾン層保護の観点から使わないと宣言しました。1992年には日本国内、翌1993年にはグローバルで、洗浄用特定フロンの全廃を達成し、この年を起点により高い環境保全の意識を持ち、現在につながっています。さらに1999年には、経営理念に「地球を友に」という文言を追加して、当社の環境への強い思いをあらためて表明しています。こうした伝統を受け継ぐ形で、2021年には長期ビジョン「Epson 25 Renewed」を策定し、その一環として「環境ビジョン2050」を発表。2050年の「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を目指すというチャレンジングなテーマを盛り込みました。(地下資源=原油、金属などの枯渇性資源)


長期ビジョン「Epson 25 Renewed」環境への取り組み 出所:「長期ビジョンEpson 25 Renewed」 拡大画像表示

今野 創業時から事業活動と共に環境対応に取り組んでいること自体、日本の製造業の中でも極めて稀ですが、それにも増して、創業時から80年にもわたって同じ姿勢を保ち続け事業のすべてがそこを原点にしているという点が、サステナビリティ経営のベストプラクティスだと感じます。私たちがお手伝いさせていただいたプロジェクトでも、そうしたポリシーを感じ事業に落とし込まれていることを裏付ける、社員の方々の発言やデータに数多く触れてきました。

 とはいえ1988年と言えば、まさに日本が空前の好景気に沸いていた時期です。あえて利益伸長ではなく、むしろコストの増えるフロン全廃にシフトした姿勢には批判もあったと思います。社内や周囲の反応はいかがでしたか。