ルスナ あらゆる業界でDXが急速に進んでおり、私たちが属する金融サービス業界も例外ではありません。

 インドネシアのオートローンについて簡単に説明すると、銀行系のローン会社、メーカー系のいわゆるキャプティブファイナンス、そして私たちのような独立系のノンバンクがあります。

コロナ禍で急成長するデジタル経済と人に寄り添うCX変革ヴィクトリア・ルスナ 氏
サミットOTOファイナンス 取締役社長
OTOグループ CEO代理

バリ銀行(Bank Bali)を経て、サミット・シナルマス・ファイナンス(Summit Sinar Mas Finance、現サミットOTOファイナンス)に入社。OTOムルティアルタでは、営業審査員としてキャリアをスタートし、CFOとして2018年取締役就任。2019年副社長、2020年社長を歴任後、2022年よりサミットOTOファイナンス取締役社長兼OTOグループCEO代理。

 銀行系は低利での資金調達が可能なことから、低い金利でオートローンを提供できるのが強みであり、キャプティブは自動車メーカー、二輪車メーカーと一体となった販売力に強みがあります。

 それに対して、私たちは顧客体験(CX)で差異化を図っています。具体的には、スピーディな与信とローンの実行、豊富な金融サービスの提供などです。それを実現するために2013年から本格的にDXに着手しました。

DXを進めるうえで重要な3つのポイント

村山 最初に手をつけられたのが、基幹系システムの刷新でした。

ルスナ そうです。従来の基幹系システムは、社内のIT部門が中心となってスクラッチで一からつくり上げたものでしたが、スピードや柔軟性などの点で課題がありました。

 従来のシステムでは、四輪車・二輪車のディーラーからの与信申し込みに素早く返答したり、各種規制、税制の改正にすぐに対応したりすることが難しかったのです。

 また、将来の商品多角化やDXの実現に向けた、次世代の事業成長のためのニーズに応えられるプラットフォームを準備する必要がありました。

 そこで、基幹系システムの刷新では自前主義にこだわらず、アビームコンサルティングの力を借りることにしたのです。インドネシアでもIT人材の需要は非常に高く、将来的には社内だけで十分な人的資源を確保できなくなる懸念がありました。ですから、ITシステム導入経験が豊富であり、かつその後の基盤運用やプラットフォーム利活用のためのアジェンダも含めて支援が可能なアビームを選んだという経緯です。

 二輪車ローンの与信では、ディーラーから即日または翌日の回答を期待されますが、新しいシステムではそうした期待に応えられるようになりました。

村山 御社の競争優位性の源泉であるスピーディで柔軟なサービスを提供し続けるための変革を達成されたわけですね。

 DXを推進するうえで、何が重要だとお考えですか。

コロナ禍で急成長するデジタル経済と人に寄り添うCX変革村山 明 氏
アビームコンサルティングインドネシア
マネージングディレクター

2004年にアビームコンサルティング入社。リース・クレジット業を中心に全社BPR(業務プロセス改革)・基幹システム導入案件に従事。2013年よりインドネシア駐在、現地企業の全社DX・CX推進、新規事業開発支援、大規模プロジェクトマネジメントなどコンサルティング実績多数。2021年4月より現地マネージングディレクターに就任。

ルスナ 大きく3つ挙げられます。1つは、トップのコミットメントです。DXにはけっして少なくない投資が必要ですし、1年や2年で完遂できるものではありません。最も重要でかつ難しいのは、従業員の意識を変革することです。いずれも、CEOの強いコミットメントがなければ、とうてい実現できるものではありません。

 当社のグループCEOであるジョハン・マルズキは、DXのコンセプトとビジョンを明確に示し、従業員の意識変革を促しました。

 2つ目は、「実行が力を持つ」ということです。コンセプトやビジョンだけで、変革を実現することはできません。実際に何をやるのかをトップが具体的に指示し、それを現場で実行し、結果を出す。DXによって何が変わるのか、どんな成果を得られるのかを従業員が実体験することができれば、組織全体の変化に弾みがつきます。経営トップと現場の間には常に距離があるものですが、実行によってその距離を縮めることができます。

 そして、3つ目は長期的なスタンスです。先ほど述べた通り、DXにはそれなりの投資が必要であり、かつ1年、2年では達成できません。企業全体を変革しようというのですから、当然です。

 ROI(投資対効果)も長期の視点でとらえる必要がありますし、変革のパートナーとも長期スタンスで協業しなくてはなりません。

 仮に、私たちがアビームに対して、「1年で結果を出してください」と言っていたら、あなた方は1年で結果が出るようなプランしか提案しなかったでしょう。それは私たちが目指すDXではありません。

村山 おおらかで人懐こいインドネシア人の気質を日本人に説明する時、「キラキラ」(だいたい)、「ムンキン」(たぶん)、「ティダ・アパ・アパ」(問題ない)の3つの言葉を紹介することがあります。