日本人、特に伝統的な大企業の場合は、「石橋を叩いて渡る」とか「失敗を許容しない」といった文化が色濃く、それがDXの障害になるといわれるのですが、インドネシアには「小さな失敗は気にしないでやってみよう」という寛容な文化があります。これは、DXを進めるうえで、大きなアドバンテージになっていると思います。
デジタル化が進んでも人が重要な顧客接点を担う
村山 実際にDXを進める中で、浮かび上がった新たな課題はありますか。
ルスナ 人々を置き去りにしない(Do not let people behind)ことです。ここでいう人々とは、従業員と顧客のことです。
私たちは、より少ない人数で与信や回収ができる自動化システムをつくり上げました。支店ではローンの販売に専念してもらい、与信は本社で一括して行うことにいったん決めました。しかし、これを権限の縮小ととらえる支店もあり、そうした支店では現場のモチベーションに影響が出ました。現場のモチベーション低下は、CXの低下に直結します。
そこですべての与信を本社で行うのではなく、一部の権限を支店に戻すなど、集中と分散のバランスを見直しました。
自動化や集中化をあまりに急ごうとすると、変化に取り残される従業員もいるということに私たちは気づいたのです。
デジタル化が進んだとしても、重要な顧客接点を担うのは、やはり人です。インドネシアの場合は、ハイレベルなヒューマンタッチがいまでも求められており、四輪車や二輪車の購入を検討する際も、オンラインではなく、実際にディーラーに足を運んで実車に触れ、営業担当者から直接話を聞きたいという消費者が大多数です。
ディーラーにしても、当社の従業員がこまめに顔を出さないと、ハイタッチなサービスをおろそかにしているととらえます。
ですから、DXを進めるうえでアジャイル(迅速)にトライアル・アンド・エラーを繰り返すことは大事ですが、同時に従業員や顧客を置き去りにしないように、実装のスピードについてはバランスに配慮する必要があるということを私たちは学びました。
CXデザインの出発点は「お客様だったら」という自問
村山 最適なCXは何かを考える時に、ルスナさんが重視していることはありますか。
ルスナ 「もし自分がお客様の立場だったら」と常に自問することです。
先ほど申し上げた通り、銀行系のオートローンは低金利という強みがあり、キャプティブはメーカーと強い結び付きがあります。ですから、独立系の私たちにとっては、CXこそが生命線なのです。
お客様だったら私たちの会社やサービスに対して何を求めるのか、私たちと相互に交流するプロセスを楽しみ、私たちのサービスに恩恵を感じてくださっているのか。それが、私たちがCXをデザインするうえでの出発点です。
そのために、私たちは日本の企業と同じように「Gemba」(現場)を非常に大事にしています。
与信や回収の自動化システムをつくり上げた時、支店の統廃合を行いました。営業担当者はモバイル端末で業務をこなせるようになり、少ない人数でより広い地域をカバーできるようになったからです。
しかし、約1万8000以上もの島々で構成されるインドネシアには、通信インフラが十分に整備されていない地域もあり、デジタル化の進展度は一様ではありません。デジタル化が遅れている地域では、人がサービスの前面に立つことでディーラーも消費者も安心してくれます。
ですから、都市部で支店を統廃合する一方で、一部の地域では新たに支店を開設しました。それによって、たとえばオンラインだけで解決できない問題があった時などは、支店の営業担当者がすぐにディーラーに駆けつけることができるようになりました。アナログな方法ですが、それは私たちが大事にするCXの原点でもあります。支店を新規開設した地域ではCXを改善でき、売上げの向上につながりました。
デジタルによってお客様との関係を希薄化するのではなく、むしろより深めるためにどうデジタルを使うか。そういう観点から、CXの変革を考えています。
村山 日本には「朝令暮改」という言葉があり、いったん決めた方針や計画をすぐに変更することは、一般的によくないことだととらえられます。中期経営計画でも3年間は決めた通りにやり抜くという企業が多数派です。
しかし、OTOグループの場合は、一度決めたことでも、従業員体験(EX)やCXの観点から好ましくないと判断すると、素早く軌道修正しています。
ルスナ 私たちは顧客や従業員のために、常に柔軟な企業でありたいと考えています。決まった通りにやり続けることが、顧客や従業員にとっていいことだとは限りませんから。
その柔軟性と機敏性が、当社が業界上位のポジションを維持できている要因の一つだと思っています。
村山 OTOグループとしての今後のDXやCX変革の展望について、聞かせてください。
ルスナ お客様のためのデータ活用をいちだんと加速させたいと考えています。当社のシステムとディーラーのシステムをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)接続するプラットフォームのロールアウト(導入)が始まっています。システムだけでなく、お互いが持つデータをつなぎ合わせることで、よりよいサービス、よりスピーディなサービスを実現させたいと思います。金融サービスのソリューションプロバイダーというビジョンを具現化していくうえでは、サービスのラインアップをもっと拡充させなくてはいけません。当社のデータ基盤をさらに充実させると同時に、ディーラーなどのデータを掛け合わせ、そこにアビームなど外部の知見を組み合わせることで、お客様の課題を解決できる新しい金融サービスを開発していきます。
お互いをリスペクトし長期的な関係を築く
村山 インドネシアは東南アジア最大の人口規模を持ち、平均年齢も30歳程度と若く、非常に魅力的な市場です。市場参入を検討している日本企業に対して、アドバイスはありますか。
ルスナ 私たちは20年以上にわたって住友商事をはじめとする日本企業とともにビジネスを行い、成長してきました。その経験から言えることは、お互いをリスペクトすることがとても大切だということです。それがなくては長期的な関係を築くことはできません。
村山さんはOTOグループを担当するようになって9年ですよね。実は私たちはあなたの上司に「村山さんを異動させないでください」と頼んだことがあります。当社のパートナーには、当社のことを十分に理解していてほしいからです。2年や3年で日本に帰ってしまっては、当社のことを深く理解できませんし、そういう人とは一緒に未来を築くことはできません。
私たちはそのように長期的な関係の構築を前提として、日本のパートナー企業とともに成長してきたと自負しています。
次に、権限の委譲も重要なポイントではないでしょうか。他社の例を聞くと、日本企業の担当者に何か相談を持ちかけた際、「私には権限がないので、本社の決裁を仰ぎます。少し時間をください」といわれることが少なくないようです。投資を伴う案件だったりすると、何カ月も待たなくてはならないこともあるそうです。
いまインドネシアには中国や韓国の企業も積極的に進出しています。率直に申し上げて、彼らは日本の企業に比べて圧倒的に意思決定が速い。それができる権限と責任を持たせているからです。日本の企業も意思決定のスピードを上げないと、ビジネスチャンスを取り逃がしてしまうことになります。
あとは、やはり語学ですね。インドネシアに限らず、自国以外の市場でビジネスをするなら、理想的には現地の言葉が使えたほうがいいですし、最低でも英語を使えないとコミュニケーションのスピードも密度も大幅に下がってしまいます。
私は日本人の親切さや伝統的な文化が大好きです。日本には優れた企業が数多くあることも知っています。いま申し上げた点を心に留めていただければ、日本企業がインドネシア市場で成長するポテンシャルは大いにあると信じています。
村山 私自身もアビームコンサルティングとしてもこの9年間、OTOグループと一緒に仕事をする中で、多くのことを学びました。基幹系システムの刷新から始まり、業務プロセス改革やDX/CX戦略の策定、マーケティングプランの実行などさまざまなプロジェクトに携わり、ともに成長できたことに感謝しています。
そうした長期的な関係の中から、当社の現地採用スタッフでマネジメント層に昇格する社員も出てくるなど、インドネシア社会に多少なりとも貢献できたことを私は嬉しく思っています。
これからも、OTOグループが目指すビジョンの達成に向けて、ともに走り続ける決意です。
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