今、欧米や日本のビジネスパーソンに人気のマインドフルネス。そのルーツは仏教の禅にある。なぜ禅の精神世界はグローバルに広がり受け入れられたのか。駒澤大学の“今”を紹介する3回連載の第2回は仏教学部の石井清純教授に、欧米における禅の歴史と、マインドフルネスへの影響を語ってもらった。
仏教学部 禅学科
石井清純教授
禅がグローバルに展開したきっかけは1950年、仏教哲学者の鈴木大拙(だいせつ)が渡米して、コロンビア大学やイェール大学で禅の講義を行ったことに始まる。その講義は反響を呼び、大拙の著書『禅と日本文化』は世界中で翻訳され、禅の思想を学ぶ人たちの必読書となった。当時は米ソ対立が激化し、多くの人たちが東洋思想に興味を持った時期だった。
「これが第1次禅ブームで“ビート禅※1”と呼ばれました。その後、ベトナム反戦運動が起こり、伝統や慣習からの脱却を目指すヒッピーたちが、禅を通して自分たちだけの自由な世界を構築しようとした。これが第2次禅ブームです。それと並行して、伝統的な坐禅をしたい人々のために、鈴木俊隆(しゅんりゅう)という曹洞宗の禅僧がサンフランシスコに修行道場を建設し“只管打坐(しかんたざ)”を指導した。彼が書いた『禅マインド ビギナーズ・マインド』は、禅を実践する解説書として世界に広まりました」
そう説明するのは、禅の思想や歴史の展開に詳しい仏教学部の石井清純(きよずみ)教授だ。
一方、欧州で禅が広まったのは60年代後半、弟子丸泰仙(でしまるたいせん)という僧がフランスに渡り、「膝で地を推し、頭頂で空を衝(つ)く」というシンプルな教えで禅を広めた。「欧州で禅が受け入れられたのは、西洋の物質文明に対する限界や、キリスト教的な世界観に対する疑問があったから。フランスで5月革命が起きるなど、若者が政治や社会への反発を爆発させていた時期に当たります。若者たちは東洋的なものに答えを求めたのです」(石井教授)。