第2回「禅×グローバル」:スティーブ・ジョブズも傾倒した禅からマインドフルネスへ

 やがて70年代に入ると、欧米での禅の受け止められ方が変化した。それまでカウンターカルチャー※2の受け皿だった禅が、高学歴・高収入のアッパーミドル層に積極的に受け入れられるようになった。仕事上の過度な競争でストレスを抱えた人たちが、坐禅をする場所を訪れ、日々の生活の心の置き方を見いだすようになったのだ。スティーブ・ジョブズもその一人だった。

世界に広がる禅の世界

第2回「禅×グローバル」:スティーブ・ジョブズも傾倒した禅からマインドフルネスへフランス:ブロワの禅道尼苑における指導者研修会
第2回「禅×グローバル」:スティーブ・ジョブズも傾倒した禅からマインドフルネスへイタリア:ミラノ郊外にある正法山普伝寺の修行僧たち
第2回「禅×グローバル」:スティーブ・ジョブズも傾倒した禅からマインドフルネスへ米国:サンフランシスコのGREEN DRAGON
TEMPLE(蒼龍寺)における公開シンポジウム
第2回「禅×グローバル」:スティーブ・ジョブズも傾倒した禅からマインドフルネスへ米国:ホノルルにある正法寺
(曹洞宗両大本山ハワイ別院)

「ジョブズの師匠となったのは、曹洞宗の僧侶の乙川弘文(おとがわこうぶん)。本学の卒業生です。ジョブズは当初、宗教的瞑想や薬物の使用によって、自己の内的世界に没入しそれを高めようとしていたようですが、やがて直感的でシンプルな思考の重要性に気付きました。曹洞宗の“ただ坐る”という教えが、彼の感性にマッチしたのでしょう。アップルの製品には、そのシンプルさが反映されているように思えます。ジョブズは大本山永平寺での修行も望んだのですが、乙川から『事業の世界で仕事をしつつ、純粋な精神世界とつながりを保つことは可能なのだから、出家する必要はない』と諭され、ビジネスに邁進(まいしん)しました。彼が常に黒いシャツを身に着けていたのは、禅僧の黒い作務衣(作業着)をイメージしていたともいわれています」と石井教授は語る。

マインドフルネスの
禅的思考とは

 マインドフルネスが誕生したのは40年ほど前で、その言葉を最初に用いたのは、ベトナムの禅僧であるティック・ナット・ハン。釈尊の教えである八正道の一つ「正念(常に気付いていること、智慧(ちえ)で観察すること)」が元になっている。79年、マサチューセッツ大学医学部名誉教授であるジョン・カバット・ジンが、疼痛(とうつう)改善の治療法として「マインドフルネスストレス低減法」を提唱。その後オックスフォード大学で、精神疾患の治療としてのマインドフルネス認知療法が開発され、ブームが到来した。

「マインドフルネスに用いられている禅的思考は、思考を停止せず、かといって一点に集中することもせず、心に浮かぶことをそのまま浮かばせ、捕まえようとせず流し去ることにあります。心を内側にだけ向けるのではなく、意識を外にも向け、自分の位置を明確化する。現実逃避でも、自分を変えるものでもなく、あるがままの気付きなのです」(石井教授)

※2  主流社会の文化とは異なり、それに反する文化のこと。対抗文化

 

新着
業界
学び
特集
書籍
業界
製造業 銀行・証券・金融 保険 建設・不動産 コンサル・士業 商社 運輸・物流 IT・通信 AI・テクノロジー エネルギー 医療・製薬 食品・農業 小売・外食 サービス・エンタメ メディア・広告 スタートアップ・新規事業 教育 財閥・学閥 予測・分析
学び
経営・戦略 マネジメント ビジネス課題 ビジネススキル 営業・マーケティング マネー・投資 相続・節税 年金 キャリア・働き方 受験・子育て 教養