顧客に合わせたコンテンツを適切なタイミングで提供。それを実現できる人材が必要

「あらゆるものがデジタルに移行し、SNSなどを中心に配信先となるチャネルやデバイスが拡大しています。情報があふれる時代に、見たくないコンテンツを提示されれば顧客は離れてしまいます。顧客の嗜好データからきちんと読み解いて、個々の顧客が求めるコンテンツを、適切なタイミングで、パーソナライズされた形で提供する。これにより顧客体験は向上し、ひいては企業の売り上げにつながります。デジタルマーケティングツールを活用して顧客体験を向上させられる、そんなデジタル人材を企業は獲得・育成する必要があります」(神谷社長)

 例えば幅広いユーザーに刺さる広告をネット経由で配信するときは、ユーザーの特性に合わせて何十パターンものパーソナライズされたコンテンツを用意する必要がある。そして、その効果をデータから検証し、素早く改善していく作業も欠かせない。展開チャネルが広がるほど、それに合わせたコンテンツ戦略が必要なのだ。

 しかし、前述した通り、それをできる人材が社内に不在、さらに採用市場で獲得することも難しいという企業も多い。

今いる社員の「リスキリング」が、課題を解決するに鍵に

 解決の鍵を握るのは、「リスキリング(学び直し)」だ。リスキリングとは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する(させる)ことを指す。実は日本政府もリスキリング支援に今後5年間で1兆円を投じる方針を打ち出している。

企業の「デジタル人材不足」を解決する切り札。リスキリングを進め、会社を成長させる一手神谷知信氏
アドビ日本法人社長
2014年10月にアドビに入社し、クラウド、サブスクリプションビジネスへのDXを成功裏に導いてきた。21年4月より現職に就任し、Creative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudを含む国内事業を統括。

デジタル人材育成へ向けたアドビの取り組み

 社会課題となっているデジタル人材育成の鍵を握るリスキリング。日本の人材のリスキリングを促進するため、アドビではあらゆる角度からさまざまな取り組みを行っている。

 例えば、官民連携の下で発足した「日本リスキリングコンソーシアム」にリスキリングパートナーの一社として参画。同団体は、地域や性別、年齢を問わず日本全国のあらゆる人のスキルのアップデートを目指す取り組みをしており、その中でアドビは三つのクラウドソリューション(Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloud)で構成される、初心者向けからプロフェッショナル向けまで多様なレベルのトレーニングプログラムを提供。

 また、パソナグループが行うDX推進人財育成プログラム「リスキリング・イニシアティブ」と連携し、Adobe Creative Cloudを活用した研修コンテンツの提供を開始した。Adobe Creative Cloudを使用してメタバース、映像、アプリケーションなどの企画からコンテンツの作成までを実践するための研修だ。

 DMM.comグループのインフラトップが運営する「DMM WEBCAMP」とは、高度デザイン人材の育成を目的としたコラボレーションカリキュラムを共同開発し、提供。

 他の企業ともパートナーシップを組み、同様の取り組みを幅広く展開している。

 個人商店や伝統文化を活性化するプロジェクトにも参画している。例えば東京都世田谷区下北沢の商店街約800店舗を対象に、直感的な操作でビジュアルコンテンツを簡単に作れるAdobe Expressのワークショップを実施。チラシ、ポスター、SNS用コンテンツなどのクリエイティブを使った情報発信を支援している。

「初心者がリスキリングに踏み出しやすくするためには、ツール自体をいかに使ってもらえるか。また難しそうというイメージを払拭することも重要です。現在、アドビのツールを使うハードルを下げるため、さまざまな工夫を行っています」(神谷社長)