「デジタルスレッド」が
デジタルツイン実現のカギ

 さて、日本企業がデジタルツインを実現する際、不可欠となるのが「デジタルスレッド」であると考えます。これは、デジタルデータを追跡可能にする「糸」を指します。

 デジタルツインにおいて、現実世界の社内あるいはサプライヤーから取得したデータでデジタルツインを構築するだけでは意味がありません。データソースを更新し続け、常に現実世界と同じ状態にしておく必要があります。「社内あるいはサプライヤー上にある設計、製造、保守サービスといった製品のライフサイクル全体がすべてデジタル化され、お互いが連綿と『糸』でつながっている状態」こそがデジタルツインの理想であり、その糸こそがデジタルスレッドです。

 たとえば、顧客が求める仕様を起点として製造、サービス、調達といったプロセス全体に製品情報をリアルタイムで連動させれば、プロダクトライフサイクル全体をシミュレーションできるようになります。こうしてあらゆるプロセスを連動させるのがデジタルスレッドであり、デジタルスレッドなくしてデジタルツイン実現は不可能といっても過言ではありません。

 ただ、各プロセス間の連携ができている日本企業は少なく、欧米や中国に後れを取っています。

 そこでアクセンチュアでは、サプライチェーンマネジメントに特化したAIソリューション「AI Powered SCM」を提供して問題を解消しようとしています。

 具体的には、「AIによる需要予測・在庫最適化やロボットによる省人化・無人化により、無駄なものをつくらず、必要な分だけ自動的に調達して生産・配送し、お客様に届ける」といった自律型エコノミーを実現します。

 ビジネスにデジタルツインを導入するメリットは、「設計開発力向上と開発速度の改善」「製品コストの削減」「品質向上」「製品メンテナンスと保守運用の改善」「エンジニアリング業務改革」など、数え上げればキリがありません。

 人、業務プロセス、データ、システムが業務領域を超えて相互の連携を実現し、設計からサービスに至るまで、プロセス上に存在するさまざまな課題を解決し、経営上の効果を生み出すことができるわけです。AI Powered SCMが、それをサポートする位置付けです。

これから目指すべき
日本企業のチャレンジとは

 最後に、これから日本企業がチャレンジすべき展望について、私の考えをお話ししたいと思います。

 日本人を中心とした旧来型の日本企業の特徴を示すものに「イングルハート‐ウェルゼル世界文化地図」という世界価値観調査があります。

 世界各国の文化的・道徳的・宗教的・政治的価値観を評価したもので、横軸(生存重視または自己表現重視)と縦軸(世俗的または伝統・宗教的)の2次元マップで評価されます。

 2020年の調査結果によると、近年の日本は「世俗的(非宗教的)」かつ「自己表現重視(非生存重視)」の価値観」が定着しているといえるようです。かねてより日本人は「集団主義」を取りがちな国民だと考えられてきましたが、同調査によれば、アメリカやスペインと同等レベルに「個人重視」の価値観に変化してきており、同時に、世界で最も高い世俗的・非宗教的価値観を示す国となっています。

 今後の製造業DXを考える時、より自己表現重視・世俗的な価値観に沿った変革アプローチが必要となってきているといえそうです。

 こうしたことも踏まえ、日本企業が改革を進めるうえで「課題」となることとは何でしょうか。私は、それを「他者観」だと考えます。

 物事を見る時には、縦に「客観、他者観、主観」、横に「過去、現在、未来」が並ぶ3×3=9通りの視点があると思います。しかし何かとサイロ構造に陥りがちな日本企業の場合、組織、特に設計・生産間の密接な連携を意識することがとても重要です。

 さらに、広いプロセスでの改革を進めるならば、複眼的・多角的な目で見る必要があり、それが将来のあるべき姿を描くうえで欠かせません。

 そのためにも主観、客観のみならず、他者観で物事を理解する姿勢が求められます。部署間の垣根を超え、組織全体の共通理解を得てこそ成り立つ「コンカレント・エンジニアリング」(複数の業務を同時進行させ、開発効率化・期間短縮を図る手法)を進めるためにも、これは重要なポイントになるといえます。

 これをDXのプロセスに置き換えて考えれば、デジタルスレッドなくして成功はありえず、「スレッド・ファースト」の意識こそ、日本の製造業がDXを達成するカギになるといえます。

 

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